私が劇場通いを始めた頃から閉館の噂はあった。短い休業からの再開。休館、そしてまた営業再開。これを幾度と無く繰り返した。そしてファンの要望に応えるべく復活し、現在は営業している。このままいつまでも営業して欲しいものだと皆思っている。せめて私が好きなうちぐらいは―。その願いも虚しく、残念なことに今年の831日までは営業は決定しているが、その後は未定と劇場側は発表している。

 

実際にあるべき姿は唯物的に受け入れざるを得ない。何度か訪れてはいるものの、このまま何もせずに忸怩たる思いのまま唇を噛み続けることは出来ない。振り返って見ると、良い思い出ばかりではないか。何としてでも広島へ行きたい。実際に観てみて何か感じ得ることが大いにある筈であった。

 

大阪からやや距離があるがゆえ、一泊したいものなのであるが、これが私にはままならない。休み明けの出勤は早番であることが多く、深夜バスは出勤に間に合わないので使えない。休み前は早番からの遅番という気が遠くなる終日労働が相場となっており、昨今の「働き方改革」の恩恵を受けていない当社としては、往復を深夜の高速道路を使う手しか残っていなかった。勤務シフトをふと見ると、偶然にも公休明けの翌日が遅番の日があるのがあることに気が付いた。

 

知人数名に「今週、広島行こうかと思う」と伝えると、京都在住のテラさんが一緒に行きたいと言う。

「それは助かります。私は2巡観て帰りますから、テラさんは一泊して下さいね。きっと出し物も多いでしょうから。終演後に薬研堀の繁華街も堪能して下さい。2巡でも大阪へ着くのは深夜になりますけど、仕事がありますので、自分は急いで帰ります」

「帰りも合わせますよ」

「広島は一日いることをお勧めしますけど」

何度も私はそう言ったのであるが

「ストリップは2回りぐらいが調度良いんですよ」

とテラさんは答える。まだまだ観られそうだと思いながらも2回りぐらいが疲れを残さず、良いのかもしれない。交通費は折半なので、晃生や東洋に行くプラス数千円程度で広島を往復出来るのは有難い。しかし2回りとはいえ、劇場にいる時間は5時間近くになるので、スト客と言う人種は少々時間の感覚が麻痺しているにちがいない。

 

仮眠一時間を経て、深夜に待ち合わせをする。私達は西へ西へと走らせた。当然ながら車内はストリップの話になる。客は特有のスト観なるものを身に付けており、“自分だけがまとも”であると思い行動している。好む踊り子、演目の方向性が同じなので、会話に不快は無かった。そのうえ、好まざるそれも同じときたものであるから、眠気に襲われることが無く言いたい放題話せた。ただ、パイパ.ン好きという彼に、濁ったスト観を持つ私は真っ向から議論が白熱した。もっとも全ての好みが同じというのもおかしかろう。

「ある方が良いですね。全くそそらない」

と主張し続けたのであるが

「無い方が美しい」

とテラさんは意に介さない。

「脱いで無かった時の虚無感は大きいですね。強いて言えば、汗をかいて化粧が落ちるような薄いものもダメです。香水も強くなければならない。舞台の上では最後まで、幕を閉じるまで、役に成り切り演じ上げないといけません。ですから衣装の汚れが目に付くと、一気に醒めますね」

「そんなものは踊り子の自由でしょうが」

負けられない議論は、広島へ辿り着く4時間強の間、交わることなく平行線が続き不毛な話が終えることは無かった。機嫌を伺いながら何も言えない空気感こそが一番怖い。意見を交わすというのは、良いことであろう。

 

ストリップには大きく変わることは無いものの、劇場毎に微妙に異なる劇場ルールなるものがある。東洋のようにタイトでは無く、広島は比較的緩いのが特徴で、全ては踊り子に任せておけばよろしい。ステージを終え、盆回りを囲った客達に一生懸命話続ける踊り子の姿も微笑ましいものだ。リアルな言葉を聞けることは少なく、こういう機会はそう無い。長年に渡り、それがベターだと築かれていったのかもしれない。客も真剣に観て、楽しんでいる。従業員から注意が入ることはそうない。そのルールを守らざる者はめいみんパンチが飛んで来るといった具合だ。エレガントでエキセントリックなパッションステージを“しばらくの間”私は見守り続けた。

 

 

20183頭 広島第一劇場

(香盤)

  1. 寿恋花(晃生)

  2. 須王愛(ロック座)

  3. 安田志穂(ロック座)

  4. 小宮山せりな(ロック座)

 

 

1巡目、安田志穂ちゃんのステージを観た後、顔を真っ赤にしたテラさんが

「こんなん観たら帰られへんがな。悪いけど一泊する」

と興奮気味に言った時は、驚いたが私は内心嬉しかった。

「ふふっ。だから言ったじゃないですか」

「しゃあないがな。最後まで観んで」

「いやぁ、ブンラスするジジィなんて、そういないですよ」

とお互い笑った。全踊り子の演目レポについてはテラさんのブログに詳しいのでそちらを参照されたい。3巡目以降も大いに盛り上がったようである。

 

 

【安田志穂 人間の条件~この空は誰のものではない~】

白いロングに手復袋にブルーと白のロングドレス姿。時折厚い洋書を捲りながら、優雅な時をすごす。華麗に舞うその姿は、舞踏会とかで踊っているのかもしれない。

曲が変わると、激しく無慈悲に犯され続ける姿に、為す術もなく受け入れている姿が悲しみを誘う。

黒いシートを大きく振り回しながら、盆に入る。赤い帽子を足に掛け、ポーズを次々に決めていく。最後に帽子を投げ捨て、笑顔で締めくくる姿にヒロインが力強く生きていくようにも思える戦火に怯え翻弄される女性のフランス革命の悲喜を力強くドラマチックに演じ上げた。

 

平和を愛し生きた人々の美しい言葉はいつか海の歌に変わる いつの日か歴史という大きな墓標が無残に朽ち果てた時 人々は海の歌をうたう日をむかえるのだろうか

 

丸味のある女性らしいフォルムにハードな仕上がり。演目と同様、志穂ちゃんには無駄なところ、妥協は一切無い。好き嫌いの別れる演目であろう。

 

志穂ちゃんとは5年ぶり、東寺以来なのであった。その時人魚姫の出し物を演っていたのであるが、盆に入った瞬間、青い尾ひれが見えるような錯覚を感じた。そのことを伝えると嘘か本当か、私のことをなんとなく覚えているというから、踊り子の記憶力というのは不思議である。嘘でも嬉しいものである。なかなか会う機会の少ない素晴らしい踊り子であることには間違いない。

 

ちなみに私がポラのサインを貰った踊り子も志穂ちゃんである。2010年の東寺の正月興行で、何も知らず写真を撮りに行き、よくわからないポラシステムを丁寧に教えて頂いたのであった。正月で物凄い客入りで、私は立ち見だったのであるが、写真の裏にはビッシリコメントが書かれてあったことに驚いたのを覚えている。「これがストリップなのか」とその時思った。あの時と変わらない文量で、この日も書かれてあった。ブログで“踊り子はポラジャジがあるから”と書かれていたが、現状では演目のみで正当に評価されないのは辛いところであろう。これは劇場経営を成り立たなくなるので、客に受けるものと自身の演りたいものの両者のバランスを保ちつつ、ステージに立ち続けていかなくてはならない。

 

すっかり雨の上がった広島の夜空を見上げ、テケツの男性従業員に

「最後まで頑張って下さいね」

頭を垂れ、

「さぁ、明日から仕事だ」

と走って出て行った。

 

観劇日:3/5(月)