王子様と28番目の家来 | 戸田てこの「て、ことだ!」

王子様と28番目の家来

ある国のあるお城に王子様が住んでいました

そしてその王子様は目が見えないのでした

王子様は目が見えないので

お日様が好きでした

お日様がお城のお庭を照らせば

ゆらゆらゆれる椅子にもたれた王子様は

体中があったかい小さな粒粒で囲まれたような気持ちになるのでした

空気のお風呂につかったような気持ちになるのでした

そういうことは目が見えなくてもよくわかることだったので

王子様はお日様が好きでした

王子様はいつも幸せでした。

優秀な27人の家来がいたからです。

王子様は毎日27人の家来たちと遊びました。

かけっこをしても腕相撲をしてもいつでも王子様は一等賞でした。

おなかがすけばおいしいスープを作ってくれるし、

王子様が転んだり怪我をしたりしないようにいつも見張っていてくれるし

27人の家来たちがいるので王子様はちっとも困ることがありませんでした。

さていつものように王子様が

ゆらゆら揺れる椅子にもたれて

お日様を味わっていると

何かころころと草の上を転がる音がして

王子様のお靴の先にこつんと当たりました

そしてその後に誰かが走ってくる音がして

その音は王子様の前でぴったりと止まりました

「君は何番目の家来?」

王子様は聞きました

けれどその家来は何にも返事をしません。

「これはなんだい?」

王子様は自分の靴の先に当たったものを指して尋ねました

けれど今度もその家来は返事をしません

王子様は心配になりました

王子様は目が見えません だからもしかしたら靴の先に何か当たったような

気がしたのも、家来が走りよった気がしたのも、王子様の聞き間違いかもしれないのです

「君はいるの?いないの?」

王子様はもう一度聞いてみました。

するとその誰かは王子様の靴にそっとキスをしました

それは王子様の家来というしるしです

けれどそのキスはいつもの大きな体の家来たちのキスとは違います

キスをしようと靴を少し持ち上げたその指も小さくていつもの家来たちのキスとは違います

「君は新しい家来だね?28番目の家来だね?」

すると草の上を走る音がしてその誰かさんはとうとう何一つ話さないまま行ってしまいました

夕食の時間、王様はおうじさまに聞きました

「今日はおもしろいことがあったかい?」

「うん。今日ね、お庭で眠っていたらね、28番目の家来がやってきたよ。」

「そうかい。どうだい。28番目の家来は?」

と王様はお尋ねになりました。

「うーん・・・。」と王子様は考えました。

「少し他の家来たちより小さいみたい。」

「どのくらい小さいのかね?」

「うーん・・・。ちょうど僕と同じくらい。それにね僕が話しかけても

何にも言わないで行っちゃったんだよ。なんだか変な家来だ」

「そうかそうか」王様はなんだか嬉しそうに笑って

「仲良くするんだよ」といいました。

王子様はなんだか変だと思いました。家来は王子様の言うことを何でも聞いてくれるのだからいつでも仲良しのはずです。

次の日も晴れでした。王子様はなんだか朝からそわそわして

朝食を召し上がると早速お庭の椅子で揺られておりました。

家来たちが順番にやってきて

「王子様、私とあそびますか?」とききました。

「いや、いい」王子様は珍しくそう答えました。

ところがお日様が高く高く上がっても、28番目の家来だけ

はやってきません。

王子様はお昼ごはんも急いで食べてまたその椅子に座り待ったのですが

家来はやってきません。

なんだかご飯も食べたしおなかもいっぱいで王子様はまたうとうととお昼寝をしました。

王子様は靴の先になにかがこつんと当たった気がして目が覚めました。

賢い王子様はすぐにぴんときました。

「もしかして、昨日のだれかさん、今ここにいるのかい?」

するとくすくすと笑う声がして、

「昨日の誰かさんなんかいないわ。あたし、今日のあたしだもの」と声がしました。

「君が誰でもいいや。昨日の誰かさんでも明日の誰かさんでも。君は新しい家来だろ?

僕今日は君と遊ぶことにする。」

王子様がそういうと、28番目の家来は

「光栄です」とも「かしこまりました」とも言わないで

「いいわよ」といいました。

そして、二人はあそびました。けれどもこの家来はなんだかとっても変です。

まず、かけっこでは王子様より早く走ります。

腕相撲は王子様のほうが少し強いけど、

王子様が勝った時「おうじさま、さすがでございます」なんて言わずに

「ずるいずるい!今のはまぐれだ!もう一回!」なんて、悔しがるのです。

なんだか変だなあ、と王子様は思いました。

おうじさまがかけっこで負けた時は悔しくてもう28番目なんかと遊ぶもんか!とおもいます。

けれども腕相撲に勝ったとき「ずるいずるい!」といわれるのはなんだかとっても嬉しいきもちになるのでした。

その日は他の家来とは遊ばないで、28番目のけらいと遊んでいました。

夕食の時間、王様は

『今日はなにかおもしろいことがあったかい?』と聞きました。

「うん。28番目のけらいがね・・・」といいかけて王子様は口をつぐみました。

なんだか28番目と面白いことや面白くないことをしたことは、

王子様のここの中に閉じ込めておきたいのです。だれかにいってしまったら心の中の温度が急に冷えるようで、いいたくないのでした。

「ううん。べつになんにもなかったよ」王子様はそう答えました。

王様はそれを聞いてとてもうれしそうに「そうかそうか」といいました。

さて、次の日です。