Lotus オールドファッションド | TRIP 嵐 妄想小説

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嵐さん大好き♡
智君担当♪山好き♡で
皆様のブログを見ているうちに書きたくなってしまいました。
妄想小説です。腐っているので注意してください!
タイトルに愛を込めて、嵐さんの曲名を使わせていただいてます。
ご理解いただけると嬉しいです。



少し暖かくなってきた3月の夕暮れ。

6時と言えど、仄かに明るさが残っている。

今日は一人の夕飯だ。

我が家の可愛い息子たちは二人で外食らしい。

どうやら上手くいっているようで、

嬉しいような、寂しいような、父親としては複雑だ。

二人が幸せなら、それで十分なんだが……。

帰っても一人じゃ味気ない。

久しぶりに少し飲んで帰ろうか。

昔、雅美と行った店がこの辺にあったはずなんだが……。

大通りから路地裏をちょっと見回す。

すぐの所にあったはずのその店は、看板も店名も変わっている。

そりゃそうだ。

雅美と行ったのはもう20年近く前の話。

私ももうすぐ四十だ。

店が変わっても当然だ。

いや、店があるだけよかったと思うべきか。

特に行きたい店があるわけではない。

入ったことのないバーに一人で入るのも、大人の遊びという感じでオツだ。

あの頃は雅美の手前、慣れたように振る舞ってはいたが、内心はドキドキだった。

今思うと、雅美や店の人にはバレていたに違いない。

それでもそっとカッコつけさせてくれた。

雅美はそういう女だった。

そういう良い所はしっかり智にも受け継がれている。

きっと二人も今頃は……。

明るいエメラルドグリーンに、濃い青で書かれた看板を見る。

Lotus。

確か蓮のことじゃなかったか?

初夏にポンと音を立て、潔く咲く花。

洒落た名前だ。

重い扉をそっと引く。

「いらっしゃいませ。」

中から明るい声が聞こえて来る。

店は入るとすぐにカウンターになっていて、そのカウンターの中から、

人懐っこい笑みがこちらを見ている。

手に持ったグラスと布巾がキュッと音をさせ、止まる。

その長い指がカウンターを差し示す。

私は軽くうなずいて、カウンター席に腰かける。

さて、何を頼もうか。

バーなど久しぶり過ぎて、ハイボール以外思いつかない。

せっかくだからカクテルを頼みたいのだが……。

バーテンダーがグラスを棚に戻すと振り返り、またニコッと笑う。

笑顔がどこか雅美に似ている。

雅美のことを考えていたからだろうか。

私は彼の奥に並んだ瓶を端から見つめていく。

酒の瓶は美しいものが多い。

ラベルだけでなく、瓶の形、色、全てが洗練されている。

まずは水割りで一杯いくか。

キレイな顔立ちの青年が背筋を整えて私に向き合う。

「なにか……。」

「ん?」

私は瓶から目を彼に向ける。

「とても良いお顔をしてらっしゃいます。」

……。

これはどういう意味だろう?

カッコイイと褒められたのだろうか?

にしては、言葉のニュアンスが違う気がする。

私の顔を見たバーテンダーが、慌てて顔の前で手を振る。

「すみません、言葉足らずで……。何か良いことがあったのかと思って……。」

ああ、そういう意味か。

「ああ、そうだね、良いこと……、そう、いいことはあった。」

バーテンダーが笑って私の言葉の続きを待っている。

「この店を見つけた。それがいいことかな。」

私がウィンクして見せると、バーテンダーが驚いた顔の後、クシャッと笑う。

ああ、本当に笑うと雅美によく似ている。

クシャッと皺の寄る目尻も、口が大きく広がるところも。

周りを幸せにする笑い方だ。

「妻とね、来たことがあるんだよ。ここに前にあった店に。」

「ああ、そうなんですね。じゃ、今度は僕がラッキーだ。」

私は首を傾げて彼を見る。

「ここに店を出したおかげで、こんな良い顔の人に会えた!」

くったくなく笑う顔に白い歯が眩しい。

この顔に良い顔と言われると……こそばゆいな。

照れ臭さを隠すように上着を脱ぐ。

「そうかな。私はあまりいい客にはなれないよ。」

どうして?と言うように今度は彼が小首を傾げる。

私は隣の席に上着を乗せる。

「外で飲むことはあまりないんだ。家で飲むのが好きなものでね。」

「では、今日は……。」

「本当に久しぶりなんだよ、外で飲むのも。ウチには可愛い息子が二人いてね。」

「それは勝てませんね。本当に今日はラッキーだ。」

「そうなんだよ、家より心地いい酒を飲むのは難しい。」

二人でクスクスと笑う。

バーテンダーの穏やかな声のトーンとモノトーンの店の雰囲気が落ち着く。

「何になさいますか?」

さて、何を頼もうか。

「そうだな……何かカクテルが飲みたいんだが……、

 久しぶりすぎて、何を頼めばいいかわからない。」

「ベースのお好みはございますか?」

「いや、なんでも大丈夫。何かオススメを作ってくれる?」

「かしこまりました。」

バーテンダーはニコッと笑って浅めのロックグラスを取り出す。

「息子さんたち、寂しがっているんじゃありませんか?」

「それが、外食していてね。家にいないんだよ。」

「外食?奥様と?」

彼は手にした氷を手の上でコロッと回す。

手の平の上にちょうどいい大きさの、丸い氷だ。

「いや、息子たち二人で。」

薄っすら白い氷を見ながら、私も答える。

「いつの間にか自分達で行動できる歳になった。」

「子供の成長は早く感じるものです。」

氷がピックで叩かれると、しぶきのように氷が飛ぶ。

「いつまでも可愛いままではいてくれないか?」

私が上目遣いで彼を見ると、雅美に似た顔がクスッと笑う。

「いつまでも可愛くてしかたないって顔、してらっしゃいますよ。」

いつの間にか入れられた琥珀色の液体に、丸い氷がポトッと落ちる。

グラスにレモンを添えると、バーテンダーが私の前にコースターを置く。

エメラルドグリーンの上に濃い青で描かれた蓮の花。

店名のロータス。

「オールドファッションドと言うカクテルです。」

まるでウイスキーロックのような酒が、私の前に差し出される。

私がグラスを持ち上げると、丸い氷がクルッと回る。

グラスに当たるカチッと言う音が心地いい。

一口、口に含み、ゴクリと飲み込む。

甘い甘い口当たりと優しい飲み口。

なのに、ズンと来るウィスキーの香とパンチ。

「私はこんなに甘く見えるかい?」

バーテンダーがクスッと笑う。

「はい。どこまでもお子様に甘いように見えまして。」

あの顔で言われると、雅美に甘すぎると言われているようで、

なんとも言い難い不思議な気持ちになってくる。

「カクテルにはカクテル言葉と言うのがあるんですが、ご存じですか?」

「いいや、知らないが、このカクテルにもあるの?」

「はい。」

私はもう一口口に含み、グラスをコースターに戻す。

「『我が道を行く』……このカクテルに付けられた言葉です。」

我が道を行く……。

口の中で復唱し、もう一口飲む。

見た目はカッコいいロックに見えて、その実、こんなに甘い。

あの頃の私のようじゃないか?

カッコつけても、甘さは隠せない。

でもそれでいいのだろう。

隣で雅美は笑ってくれていた。

今だって……。

どんなに親だ、大人だと言ったって、あの子たちにはこのカクテル以上に甘くなる。

可愛いんだから仕方ない。

愛しているから……甘くもなるさ。

我が道を行く。

私は私の道を行く。

どこまでもとことん甘くなってやろうじゃないか。

あの二人が笑ってくれるなら。

あの二人は……我が道を行ってるな。

「息子たち、今日はバレンタインのお返しに食事に行ってるんだよ。」

「お客様のお子様なら、モテそうですね。」

「どうかな?イケメンだとは思うんだが……。

 優しさはこの上ないし、上の子は料理も旨くてね、

 下の子は勉強もできてなんでもよく知ってて……。」

バーテンダーがニコニコ笑ってナッツの乗った皿をカウンターに置く。

うん。二人の話は尽きない。

今日もいい酒が飲めそうだ。


 

 

 

 

 カンパイ・ソングの潤パパ編