木原光知子さんがお亡くなりになりました。
まだまだお若く、59才だったというテレビ放送を聞きました。
木原さんが東京オリンピックに出られたとき、わたしはテレビ画面にかじりつくようにして応援しました。
ほんとうに生き生きとした美人で、アイドル的選手でした。
近頃でこそ、スポーツ選手が大きくマスコミにとりあげられるようになり、一部の選手は人気タレントと変わらない扱いを受けるようになりました。フィギアスケートの女子選手たちや、わたしのやっているモーグルの上村愛子さんなど、そうした選手の代表かもしれません。
しかし、振り返ってみると、木原さんが人気者になったころ、まだまだスポーツ選手は陰の存在でした。
大新聞社の会長が、「たかが野球選手」という発言をしたのは、つい最近のこと…。木原さんに人気が出て、有名になりつつあった当時、知識人や権力者の多くが、心からそう思っていたのではないでしょうか?
「スポーツ選手のぶんざいで…」
そんな陰口が聞こえてきそうです。
木原さんの少し辛そうな笑顔を見るにつけ、わたしは彼女が受けてきただろう中傷や悪意のある噂話を、心のどこかに感じざるを得ません。日本が生んだ、最初のスポーツタレントとも言えるだけに、彼女にしかわからない厳しい体験や辛い経験を、たくさんくぐり抜けて来たに違いないと考えます。
もしかしたら、ほんとうはそんな辛い経験はなかったかもしれません。もしわたしの考え違いなら、その方が嬉しいことです。
しかし、あれだけの業績を残しながら、どこか辛そうに見えた彼女が、わたしのなかに住んでいます。
「いつまでも健康に」という言葉を掲げていただけに、体重制限やトレーニングなど、頑張っていたに違いありません。
わたしの考えでは、現在のチャンピオンスポーツはとても不健康です。
健康では勝てません。
それに、勝つことに焦点が絞られすぎ、それ以外の大切な要素が、スポーツそのものからそぎ落とされています。
木原さんはそんなチャンピオンスポーツを、ずっと続けられ、現役の日本記録保持者から、マスターズの世界チャンピオンまで、長い道のりを歩いて来られました。
いっけん華やかで、人生の成功者に見える木原さんですが、わたしにはその裏側に隠れた途轍もない努力と厳しい意志の力が透けて見えます。
お疲れさまでした。
どうか、今度ばかりは、休まれてください…。
木原さんのレクイエムには、フォーレが似合うような気がします。