小川智之 渚のパパラッチ -104ページ目

急展開

「よう!小僧!」
そういって、行きの飛行機では確か先生呼ばれてたおっちゃんは、
スチュワーデスを平手でふっ飛ばし、
ずかずかと僕の方に歩いてきて隣のサラリーマン風のお兄さんに

「おい!あんちゃんファーストクラスの席に座ってみたくねえか」
「はぁ、、、まぁ」
「よし!じゃあ俺と替われ!」
そう言っていきなりどかっと僕の隣にすわり
「しかしよ、小僧このエコノミーも座ってみたらいかにも大衆って感じで
たまにはありだな」
僕は、びくびくしながら
「そ、そうですねぇ」
おっちゃんは笑いながら
「なにを小僧が分かった風に、そうですねじゃねんだよ」
そう言いながら僕の頭をゴムボールのようにピシャピシャと
「あっ。あの僕は小僧じゃなくてトモユキって言います」
「小僧、この飛行機はいったいどこに向かってんだ」
耳を疑いました。この人は正気ですか。どこの世界に行先も知らずに
飛行機に乗る人がいるんですか。耳を疑いました。
この人は一体何なんだ?
スチュワーデスはピシャーと殴るし酒はガブガブ、いきなりエコノミーのほうがいいと言い出す。真っ黒スーツにサングラス、しかも隣で平気でブーブー屁をこいてる
そして先生と呼ばれてる。絶対にヤバい人だ、とにかくかかわらない方が身のためだ。
「な成田に向かってます」
「なに、成田!そうかそうきたかー」
なにがどうきたのだ。
触らぬ神にたたりなし
ここは寝るのが一番だ!膝に掛けた毛布を上まであげ準備完了。話が途切れた今しかない。
そして目を閉じようとした。その時
「おい?何やってんだ?」
「寝ようと思って、、、」

あの時の先生の顔は今でもはっきり覚えています。
先生はニヤリと笑い
「お前は寝れないよ」
「えっ?」
「俺とこれからべガスだよ」
「いや、でも成田に向かってますよ」
「馬鹿!飛ぶんだよ」
「はぁぁぁ!?」

帰り道

とにかくニューヨーク旅行は大変だった
変なおっちゃんに出くわす事から始まって
僕の中学英語が通じない
ブロードウェイミュージカルは噂の外人さん達が
歌ったり踊ったり楽しそうにしていたが、何を言ってるかさっぱり
あとはセントラルパークの暗がりで黒人兄さんにガムを5枚100ドルで買わされたりと。
まあ大変だった、しかし終わってみれば楽しい思い出だ。
さらばニューヨーク。一人で無事に海外旅行を終え安堵している中
僕を乗せたジャンボジェットは日本へ向かって飛び立った。

飛行機が無事飛び立って緊張が解けたのか僕は眠ってしまった
しばらくして僕はハッと目が覚めた。
前の方が何やら騒がしい、その時何か聞いたことのある声とフレーズが聞こえてきた。

「何回みてもこっから見るエコノミーは家畜だな」
「お客様困ります」


・・・背筋につーっと冷たいものを感じました。
でも僕は勇気を出して座席からひょこっと顔を横にだし前を見ました。

「うるせー!お前は黙って酒を持ってくればいいんだよ!ピシャー」
「キャー!痛い」
スチュワーデスのお姉さんは横の吹っ飛ばされ
僕の目の前にはその声の主が仁王立ちしていました。

「ん!?よう小僧また一緒だな、しかし相変わらずこきたねえ野郎だな!」

・・・・・・・!!!!!!!!!
あのおっちゃんだ!

出会い編1

高校を卒業して、生まれて初めて徳島を出ました。

行く先は、ニューヨーク一人旅。

実は、近所の商店街の福引で、ニューヨーク5日間の旅が当たったので、家族で行くつもりでしたが、両親も兄弟も漁師の仕事を休めず、僕だけ行くことになりました。


成田から飛行機で13時間です。

最初は、わくわく、色々なものが珍しくキョロキョロ、

高度1万メートルで読む新聞は、地上と違うのかしら、とか

高度1万メートルだから、水は美味しいだろう、とか・・・。

でもだんだん、見渡す窓の外の景色の変わり映えのなさに飽きてきていました。

僕の席はエコノミークラスの一番後ろのトイレのすぐそばの席でした。


ロシア上空を飛んでいた頃でしょうか、通路を一人のおじさんがうろうろしていました。

その人は、さっきから何度も往復しているみたいでした。

スチュワーデスが、

「危ないですから、お席にお戻りください」と声をかけると、


「あん?誰に言ってんだ?」


とどこからか木刀を取り出し、殴りつけました。

スチュワーデスは、「ヒェー」と泡を吹いて逃げ出しました。

そして、その様子を見ていた僕と目が合うと、僕の席までつかつか歩いてきて、


「お前、なんだ?」


「・・・」


「しかしよ、エコノミーってのは、家畜と同じだな。おっ、牛がいるぞ。こっちは豚だ。」


突然乗客を指差して大声でしゃべり始めました。

指差された方は、青くなったり、赤くなったり・・・。

そして、ファーストクラスの席から、慌てて人が走りこんできました。


「先生、先生、こちらにいらしたんですか。お席にお戻りください」


先生?なんだか偉い人みたいです。

そして、先生と呼ばれたそのおじさんは、

「エコノミーとファーストクラスのトイレは違うのかな」

と言ってトイレに入って行きました。


この出会いが、後に僕の運命を大きく変えることになるのです。