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ふと、目が覚めた。
薬が効いたのか、スッキリした頭に真っ先に浮かんだのはにのの泣き顔。
「にのっ!」
ガバッと起きて部屋を見渡せば、
「いた…」
ベッドの足元、床の上でクッション抱えて転がってた。
ホッとして、寝顔を見下ろす。
驚いて、逃げて、泣いて…
長旅の疲れとおれからの逃走でぐったりのにのは、ようやく安心したのか、すぅすぅ静かな寝息を立てていた。
「風邪ひくぞ…」
音を立てないように静かにベッドから降り、押し入れから毛布を引っ張り出して丸まった小さい体をそっと包んだ。
半分開いた口、下がったフワフワの眉、閉じた瞼をまつ毛が縁取って、キレイな曲線を描いてる。
ごめんな。ヤな思いさせて。
そっとまつ毛に触れる。
その奥にあるキレイな薄茶の瞳を思い浮かべて。
にのは、擽ったそうに一度だけ目をキュッとやって、コロンと仰向けになった。
そして、まるで小さな子供のように口をムグムグさせて、また眠りに落ちた。
そう、まだ子供だ。
おれがようやく18になったってのに、こいつはまだ、15
きっと何にも解ってない。
こんな無防備な寝顔晒して。
…顔、ぐちゃぐちゃだったな。
目を覚まさないのをいいことに、今度はほっぺをつつく。
こんなすべすべでまっ白なほっぺが、さっきは真っ赤になってポロポロ涙で濡れて…。
ジャニーズだってのにすっげーブサイクで。
…ま、超絶可愛かったけど。
柔らかい髪をクルクル指で遊ぶ。
ほんとに来てくれたんだな。
思い出す。
10日くらい前の電話。
― おおちゃん、もうすぐ誕生日だね。
― 18歳だね、大人じゃーん。
― 練習あんだ。じゃ、どこも行けないね。
― ふーん、一人でケーキ?
― さっびしー♪
― 今度、いつ帰ってくんの?
― お正月かぁ。じゃぁさ、そん時プレゼントあげるね。
― うふふー。じゃぁねー。
なんて。
ぜってー、来る気だって思った。
電話じゃなんも言ってなかったけど、やたらウキウキでなんか企んでるのが丸わかりだった。
わざとらしくおれの予定とか聞いてさ。
おれだって超楽しみでウキウキで。
なのにタイミング悪く風邪ひいて、結構キツクてフラフラで。
はるちゃんに病院で休んでけって言われたんだけど、だから、どうしても帰って来たかったんだ。
なのに、これまたまさかの最悪なタイミング。
おれに仕掛けたはずのサプライズで、本人が一番の衝撃受けるっていう…。
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ふらつくおれをはるちゃんが支えて、もう少しってとこで物音に振り返ったら、
…にのがいた。
目を真ん丸にして、おれを見てはるちゃんを見て、もっかいおれを見て。
そして、バッと向き変えて駆け出した。
この状況、あいつ絶対勘違いした。
「まっ、待て、にのっつ!」
「智君!」
はるちゃんの手を振り切ってにのを追っかけた。
エントランスを走り出た途端、足が何かにぶつかる。
「わわわ…」
つまづいて無様にコケた足元を見れば、転がってるリュック。
そして、外ポッケから飛び出した観光パンフと小さな紙袋。
…リボン付きの。
拾い上げたら、ヨレたパンフからヒラリと紙が一枚落ちた。
手に取れば、びっしり並んだ見覚えのある丸っこい文字。
にの…
おれはリュックを抱えて立ちあがった。
「智君、なにしてんの!? ほら、帰るよ!」
「ごめ…、はるちゃん、行かなきゃ…」
パタパタ駆け寄ってきたはるちゃんの、優しい手を振り払う。
「はぁ? 何言ってんのよ!」
「にのが…」
「そんなフラフラでどこにも行けっこないでしょって、…あ! こら!」
はるちゃんの隙をついて、有りったけの力を振り絞って走る。
「待ちなさいっ!!」
「悪りぃ…」
ぜーぜー走りながら抱えてたリュックを背中に担ぐ。
とんでもなく重い。
こんなの背負って、家から駅行って新幹線乗ってバス乗って、歩いて歩いて…。
にの…
「…渡月橋に行ってください」
おれはタクシーを捕まえて、どうにか行先を告げた。
握りしめた手の中の紙。
にのの、手書きの計画表。
パンフ見ながら一生懸命考えたんだろう。
① 渡月橋
② 竹林
③ コンビニでケーキ買う。
④ プレゼント。ちゃんとおめでとうって言う。
⑤ 一緒にゲームする。
きっとワクワクしながら、ニコニコしながら、時間やらバス停やら調べてメモって。
おれは、薄れてしまいそうな意識の中、ただ、一個の言葉だけ呟いてた。
にの、にの、にの…って。
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見えてきた建物。
門前、言葉通り10秒で着いたにのが和服姿の女の人と一緒にこっちを見てる。
そして、何か話しながら門をくぐってった。
「待てよー、置いてくなよ-」
最後の10m、おれも走って門をくぐる。
「遅ぇよ。もうオレ、腹空いて死にそう。半端に飲んじゃったからめっちゃ寒みぃし」
肩越し、振り向いてブツクサぼやくにの。
あん時の初々しさはカケラも無くなっちったけど、それはそれでやっぱ、可愛い。
つい、頬が緩むのはしょうがない。
「離れにお食事の用意が出来ております。露天の方も、いつでもお使いいた頂けるようになっておりますので」
「…はい、ありがとうございます」
にやけてるおれの代わりに、にのがきちっと頭下げてくれた。
「では、私はこれで。何かありましたらお呼びくださいませ」
中居さんはそう言うと、さり気なく視線を逸らせたまま離れとは反対方向に歩いてく。
薄暗い灯りの下、和服の背中は闇に溶けてあっという間に見えなくなった。
「…さっきから、ニヤニヤ、キモいんですけど」
今じゃ、ツンツンもすっかり標準仕様。
へへ。
尖んがった唇。
…かわええ。
早く喰いてぇ…。
「…やらしい顔しちゃって」
「そりゃ、しょうがねぇわ。どんだけ我慢してっか」
「あなた、今日は工口モードだもんね。ずっとスイッチ入りっぱなし」
呆れた顔したにのの肩を抱き寄せて、飛び石の並ぶ砂利の小径を少し歩けば、ぐるりと竹垣に囲まれた小さな東屋っぽい建物が見えてきた。
なんか、このひっそり感がもうヤらしい。
ガラガラと格子の入った引き戸を開ける。
わー…
おれの腕から逃れてとっとと中に入ったにのが、思わずって感じで声を上げる。
純和風の二間続きのこじんまりとした造り。
何年か前、二人で行った山間の宿を思い出す。
純粋なプライベートの旅行なんて、あれ以来だ。
小さな縁側に立って窓の外を眺めてるにの。
暗くて何も見えやしないのに。
おれはスタスタ部屋を横切り、襖を開けて隣を確認して…、ニンマリ笑う。
シチュエーション、ばっちりじゃん。
そして、素っ気ない背中にそっと近づく。
ふふ、そんな後姿してたって、丸見えの耳朶、真っ赤。
「にのっ!」
「うわ!」
後ろからギュッと抱きしめる。
「ようやく、ヤれんな。ゾクゾクする」
「もー、せっかくいいトコ来てんだからさ、もう少し情緒ってモノを味わわせてよ…」
腕ン中でモゾモゾ、悪足搔き。
「こんな、アツイカラダしてるくせ、そんなん、味わえるワケねーだろ」
右手で、細い顎を掴んで横を向かせて唇を奪う。
「…ンッ、あぁ…」
同時に左手をにののイイトコに滑らせる。
脇とか、胸の粒とか、ヘソの辺りとか、色々。
「お、おおの、さ、ちょ、待って、まだメシ食ってないし…」
それだけで、すっかり息が上がったにのが、弱っちい抵抗を見せる。
「おれは、お前を喰いたい…」
後ろから抱えたまま、にのを隣の部屋まで引き摺って、
「ほら、見てみ? いかにもで、すっげーソソルだろ?」
「…………」
わざとらしい距離で敷かれた派手目な柄の二組の布団、まっ白なカバーの掛かった枕、橙色の行灯、明かり取りの丸い窓の白い障子、青い畳の匂い。
「…まさに、どうぞ、思うまま存分にヤってくださいって感じだね…」
「だろ、ほれ、ヤろうぜ♪」
「まったく、身も蓋もない…」
しばらく無言で見ていたにのが、ふぅっと息を吐いた。
そして、ゆっくりと振り向く。
「…いーよ、シよ。思いっ切り」
蕩けるような、最高の工口顔。
堪んねぇ…
おれは、飢えた獣みたく、にののカラダに飛びついた。
続く。