S side
マジ焦った。
「ふふふふふっ なんで二人共そんなにシンクロしてるの?」
多分、俺と潤の発想が間違ってるだけで
君は何も悪くないよ。
普通なら『好き』と言われれば嬉しいはず。でも俺達は、それが恋愛であったから、その言葉を重く受け止めてしまうんだ。
「父さんだって、今でも好きでしょ?櫻井さんのこと。」
「カケルっ…あのさ、落ち着いてくれよ。」
「落ち着くのは父さんの方。弄りすぎた耳が、もうすんごい真っ赤になってるよ。」
それは俺も思ってた。
潤が、何度も耳をニギニギしているのを。
焦るよな。
俺がいて、カケルの名前をバラされて、最終的に俺を好きとか言われてさ。
……ん?
焦る?
…なんで?
俺は今でも潤を思っているし、懐中時計だってずっと持っていた。…いつか、お前と出会えた時のためにって。
もしそれを、1つ1つ自分の意に反して
目の前でバラされてしまったら…。
赤面確実だ。
「潤…」
「しょぉ…くん。」
恥ずかしそうに居心地の悪そうな潤の姿に、鼻の奥がツンとした。
もしかして『好き』の重みは
俺とお前
まだ…同じなのか?
「え?…あー、もしかして……西園寺くんの方が良かった?」
「全っ然。カケルの方が嬉しいです。」
無言でコクりと頷いた。
少しの沈黙と緊張感。
自分のポケットへと手を入れて
いつも金属の感触だけを確かめていた
丸いそれ。
ゆっくりと手の内で転がしてから
テーブルの上へと乗せた。
潤とカケルくんが前のめりに同じ姿勢になりながら、黒曜石のような黒目を大きく開いて見入っている。
そんな2人の姿に
不思議と俺は癒されて
「カケルくんが見たかったのって、これだろ?」
「…はい。……あの、手に取ってもいいですか?」
「もちろん。」
カケルくんがおずおずと手を伸ばし懐中時計を手にする。すぐに裏返すと、『J』と刻まれた文字をゆっくりと指の平でなぞった。
「え…『J』?…父さん、なんで『M』にしなかったの?」
「なんでって、オレの名前だからだけど。」
「だって櫻井さんは苗字なのに。…あ、そっか、お名前……『翔』さんか…」
カケルくんは1人でふふっと笑い
その横顔を見る潤は、同じように柔らかく微笑んでいた。
マジ
天使が2人いるんだが。
店の中にいるとはいえ、俺には
天からライトアップされた天使が2人に見える……。
「翔くん、ありがとう。無くさないでいてくれて。」
「無くすどころか、俺は、肌身離さずずっと持っていたけど。」
「え…。マジで…?」
「マジで。」
潤の瞳をジッと見つめた。
「俺は、お前と出会えた時のためにいつでも持ち歩いてた。だからほら、お前のよりツヤがいいだろ?」
笑って指さす俺を真剣に見つめる潤。
何か言いたげで、でも言えなさそうに唇を軽くしまい込んでいる。
「潤が言ってくれた言葉、俺はずっと覚えてるよ。」
「…そんな昔のこと……」
「潤が謝ることじゃねーよ。それに、会社がひとつ無くなったところで櫻井グループは無くなってないから。」
「え……。」
「名前をね、ちょこっと変えたんだよ。それに、代表も。それに俺は大学だって変わったんだ、それだけで俺が潤に手を出したことを許されたんだし、良かっただろ?」
『違うよっ手を出したのは俺の方でっ』
と、大声を出す潤を落ち着かせ
隣りでジッと俺達を見ているカケルくんに目をやった。
カフェ……平気かな。
周りに聞かれたら困るって言ってたから。
でも、カケルくんは全然気にしてない素振りで『続けて』と手のひらだけで返事をした。
「潤…俺との再会は…もしかして嫌か?」
「まさかっ…」
俺は、潤とはもう二度と会えないと思っていた。でも、まさかこうしてまた出会えた。
「あのさ、潤が良ければだけど、俺達また…昔みたいにこれからも会わないか?」
「むっ、昔……って…」
「あ、や、………」
瞬間、狼狽える自分を、息を吸って落ち着かせ、テーブルの上に乗せた手の内を合わせ
ギュッと握り込んだ。
「潤、俺の気持ちは、今も…お前と別れたあの頃と少しも変わらないよ。」
「え……」
「変わらない……。変われない、の方が合ってるかな。」
ははっと笑うと、切なく微笑む潤と目が合う。
お前の目、綺麗だな。
「オ、レも…変わらないし、変われなかった。翔くんのこと……ずっと…」
「うん。好きだよ。だって父さんを笑顔にしてくれたから。」
「「あ、そういう事ね。」」
マジ焦った。
「ふふふふふっ なんで二人共そんなにシンクロしてるの?」
不思議そうに見ている西園寺くんに、
心の中でごめんと謝った。多分、俺と潤の発想が間違ってるだけで
君は何も悪くないよ。
普通なら『好き』と言われれば嬉しいはず。でも俺達は、それが恋愛であったから、その言葉を重く受け止めてしまうんだ。
「父さんだって、今でも好きでしょ?櫻井さんのこと。」
「カケルっ…あのさ、落ち着いてくれよ。」
「落ち着くのは父さんの方。弄りすぎた耳が、もうすんごい真っ赤になってるよ。」
それは俺も思ってた。
潤が、何度も耳をニギニギしているのを。
焦るよな。
俺がいて、カケルの名前をバラされて、最終的に俺を好きとか言われてさ。
……ん?
焦る?
…なんで?
俺が焦るのはわかる。
俺は今でも潤を思っているし、懐中時計だってずっと持っていた。…いつか、お前と出会えた時のためにって。
もしそれを、1つ1つ自分の意に反して
目の前でバラされてしまったら…。
赤面確実だ。
「潤…」
「しょぉ…くん。」
恥ずかしそうに居心地の悪そうな潤の姿に、鼻の奥がツンとした。
もしかして『好き』の重みは
俺とお前
まだ…同じなのか?
「カケルくん、…約束のもの、持ってきたよ。」
「わっ 櫻井さんにカケルって名前呼ばれたの初めて。新鮮で嬉しいかも。」「え?…あー、もしかして……西園寺くんの方が良かった?」
「全っ然。カケルの方が嬉しいです。」
無言でコクりと頷いた。
少しの沈黙と緊張感。
自分のポケットへと手を入れて
いつも金属の感触だけを確かめていた
丸いそれ。
ゆっくりと手の内で転がしてから
テーブルの上へと乗せた。
潤とカケルくんが前のめりに同じ姿勢になりながら、黒曜石のような黒目を大きく開いて見入っている。
そんな2人の姿に
不思議と俺は癒されて
「カケルくんが見たかったのって、これだろ?」
「…はい。……あの、手に取ってもいいですか?」
「もちろん。」
カケルくんがおずおずと手を伸ばし懐中時計を手にする。すぐに裏返すと、『J』と刻まれた文字をゆっくりと指の平でなぞった。
「え…『J』?…父さん、なんで『M』にしなかったの?」
「なんでって、オレの名前だからだけど。」
「だって櫻井さんは苗字なのに。…あ、そっか、お名前……『翔』さんか…」
カケルくんは1人でふふっと笑い
その横顔を見る潤は、同じように柔らかく微笑んでいた。
マジ
天使が2人いるんだが。
店の中にいるとはいえ、俺には
天からライトアップされた天使が2人に見える……。
「翔くん、ありがとう。無くさないでいてくれて。」
「無くすどころか、俺は、肌身離さずずっと持っていたけど。」
「え…。マジで…?」
「マジで。」
潤の瞳をジッと見つめた。
「俺は、お前と出会えた時のためにいつでも持ち歩いてた。だからほら、お前のよりツヤがいいだろ?」
笑って指さす俺を真剣に見つめる潤。
何か言いたげで、でも言えなさそうに唇を軽くしまい込んでいる。
「潤が言ってくれた言葉、俺はずっと覚えてるよ。」
「…そんな昔のこと……」
「『どこに居ても俺達の時間は変わらない。』…もしかして、俺だけが大事にしてた言葉だった?」
「違うよ。オレだって。」
真剣な眼差し。
潤の熱のこもった瞳は
なんでこんなにも
俺の胸の内を焦がすのか。
「…でも、翔くんのご家族には迷惑をかけてしまったし。…オレはあの頃は何も出来なくて。……本当にごめん。」
やっぱな。
お前のひっかかりはそこだよな。
「潤が謝ることじゃねーよ。それに、会社がひとつ無くなったところで櫻井グループは無くなってないから。」
「え……。」
「名前をね、ちょこっと変えたんだよ。それに、代表も。それに俺は大学だって変わったんだ、それだけで俺が潤に手を出したことを許されたんだし、良かっただろ?」
『違うよっ手を出したのは俺の方でっ』
と、大声を出す潤を落ち着かせ
隣りでジッと俺達を見ているカケルくんに目をやった。
カフェ……平気かな。
周りに聞かれたら困るって言ってたから。
でも、カケルくんは全然気にしてない素振りで『続けて』と手のひらだけで返事をした。
「潤…俺との再会は…もしかして嫌か?」
「まさかっ…」
この場所でカケルくんに声をかけられたあの日、自覚無しで見つけた彼の中の潤を感じて
胸が熱くなった。
俺は、潤とはもう二度と会えないと思っていた。でも、まさかこうしてまた出会えた。
「あのさ、潤が良ければだけど、俺達また…昔みたいにこれからも会わないか?」
「むっ、昔……って…」
「あ、や、………」
瞬間、狼狽える自分を、息を吸って落ち着かせ、テーブルの上に乗せた手の内を合わせ
ギュッと握り込んだ。
「潤、俺の気持ちは、今も…お前と別れたあの頃と少しも変わらないよ。」
「え……」
「変わらない……。変われない、の方が合ってるかな。」
ははっと笑うと、切なく微笑む潤と目が合う。
お前の目、綺麗だな。
それで…
なんでそんなにうるうるしてんの。
口元も痛いくらいにつぐんだりして。
あぁ……、お前のその唇に触れてーな。
「オ、レも…変わらないし、変われなかった。翔くんのこと……ずっと…」
三日月のようにゆっくりと弧を描く
黒曜石の瞳。
柔らかく微笑む潤に
胸の奥をぎゅっ…と掴まれた。
次は、おやつのお時間3時です🍪🕒