S side







「じゃあ、また2人で付き合っちゃえば?」

「「えっ…?!」」



今まで黙って聞いていたカケルくんが、突拍子もなく呟いた。


「だってさ、好きじゃん。2人とも、ずっと好き同士だったじゃん。気持ちが変わらなかったんでしょ? なら答えは1つだよね。」



カケルくんが、自分の顔の前で『1』と人差し指を立てている。


答えは1つ…か。



「カケルッ 櫻井さんが…困ってるだろ。」

「困ってるのは櫻井さんだけ? てことは、父さんはOKってこと?なら決まりだね。」
「いや、ちょっと待っ……」


カケルくんの言葉で潤の顔は不安そうに歪んだ。困った表情で潤が俺を見てる。




あれから何年も経った俺は櫻井グループを離れて、しがないサラリーマンになったし、どう見たって学生の頃の若々しさなんかないオジサンだ。


潤は……

まあ、今だに天使ってところが伝説を重ねてる感じで、らしいっちゃあ…らしい。歳食ったわりにイケメン度合いが増してて、相変わらずけしからんのは良しとして。




今、俺を見つめてる表情なんて
可愛いくて仕方ねーよ。



「俺の返事はOK。ただ、潤に確認だけど…、付き合うって、そっちの付き合うってことで…合ってる?」



中学の時、秒でお前に惚れた。
今なら認める。

俺が先に、お前に惚れたんだ。

だけど告白してくれたのはお前からだった。
潤のおかげで俺達は、あの頃、大切な時間を過ごせた。



「…そっちって、なに…?」
「……大学時代の…俺と潤。先輩後輩の仲じゃなく、…恋愛関係の、俺とお前の方。」



カケルくんが、潤を見つめてる。


「潤、…答えは?」



高3のあの日、素直に心をぶつけて来た潤。また俺に、ぶつけて来てくれねーかな。
お前の心を。



俺の言葉を真剣に聞いていた潤が、一瞬だけふわりと微笑み、ゆっくりと頭を下げた。




「……よろしくお願いします。」

「良かったぁぁぁぁぁ……っっっ」



潤の返事と共に、ドッとテーブルに突っ伏したのはカケルくんで、俺と潤で両目を開いて驚き、どちらともなく『ふふっ』と微笑み合った。





「じゃあ、今から僕には父さんが2人になるんだね?」
「ん?」
「どゆこと?」


『え?違うの?』と不思議そうに俺らを交互に見るカケルくん。そして潤も目を丸くしながら俺を見た。


だから
天使が2人してかわいーんだっつの。



「そうだな、これからは俺もカケルくんの親父サマになるって事だ。」

「うわっ 嬉しい…。僕、櫻井さんと同じ苗字になれるんだ。」
「いやっ  そーいう訳じゃねーんだけど(笑)」
「え? 違うの?」



カオス。
カケルくんの発想がいちいちぶっ飛んでて、どこか昔の潤を思い起こさせる。それに…



「カケルはもう黙ってろよ…」

などと恥ずかしそうに顔を赤らめる潤が可愛くて、俺の顔も自然と笑顔がこぼれてしまう。

いや、俺
ニヤニヤしすぎかもしんねー。




コホンと軽く気を引き締めて
改めて潤へと向き合った。



「潤、今日からまた…よろしくな。」
「うん。なんか、カケルが迷惑かけて申し訳ないけど。翔くん、これからもよろしくお願いします。」
「堅い。かたすぎだよ2人とも。もっとこう、手を取り合ってちゅっちゅとか、ぶっちゅとか…」
「カケル…💢」




戒めるように低い声を出した潤。
目線を下げて、その姿でカケルくんを制している。


はぁ…
泣ける。

なんか、潤も大人になったんだな。




「じゃあ、お言葉に甘えて、今からカケルくんのお父さんをお借りしても良い?」
「どうぞどうぞ。父さんが今度また櫻井さんと会う時、僕の事も呼んでくれるならね。」
「「えっ ?!」」
「は? 何その2人して『お前も来るの』的な表情は。僕だって櫻井さんともっと話してみたいんだから。」
「…あぁ、そっか。うん。会おうよ、カケルくんも。」
「はいっ」


嬉しそうに俺を見つめるカケルくん
その隣りには、少し渋くなった潤。




マジで幸せが一気に迷い込んできてるんだが。俺死ぬの?え、このまま死んじゃうのか?



「翔くん、今からどこ行く?行きたいところがあるの?」
「そうだな。…あそこへ行こう。俺らの最後の場所。」
「あー、……あの図書館?」
「そう。やっぱ覚えててくれた?」
「ふふっ うん。忘れられないよ。」



二人で一気に席を立った。




「へーっ  もう2人だけの世界じゃん(笑)」

「「まあな。」」


カケルくんがどこか嬉しそうで
思わずドヤッてしまう。



潤と離れていた時間の孤独。
だから余計にありがたい。
新しい出会いと再会を与えてくれたカケルくんには、本当に感謝だな。



「カケルくん、あの日、俺を見つけてくれて本当にありがとう。」
「ふふっ こちらこそありがとうございます。父さんの長年の恋が実ったし、僕も嬉しいです。」
お前マジで…


口元だけで威嚇する潤をなだめ
カケルくんに挨拶をした。


テーブルの上、

二つ並んだ懐中時計。


それぞれをまた、自分の手の元に引き寄せる。


感慨深そうにため息を吐いたカケルくんが

潤へ声をかけた。



「父さん、懐中時計はやっぱり二つだったね。」

「まぁな。」

「僕の推理力に感謝してよ。」

「ふふっ ……ありがとな。」





土曜日の午後。
商業施設の外に行くと
秋の空が青く澄みきっている。



あのイチョウの木の根元は、

黄色い落ち葉がたまり、

まるで花が咲いたように見える。


秋ってこんなに美しかったっけ?
街路樹の黄色やら赤やら

空の青さと相まって最高なんだが。



そして

俺の隣りに立つのは

渋いのか可愛いのか

マジで表現に迷う天使 松本潤。




「翔くん、手は…繋ぐ?」
「や、それはダメだろ。」
「そっか。おじさん二人のソレは、やっぱおかしいよね。」
「まーな。でもその代わり、……」
「ん…?」



残念そうに片眉を上げた潤に近づき
耳元で低く囁いた。



「今夜は、俺ん家に泊まれよな。」
「えっ…?」
「離れてた分、潤の中をしっかりと愛したいんだけど、……いい?」
「ちょっ…、翔くんっ」


慌てる潤の隣りで平静を装いながら、
自分で言った言葉に冷や汗をかく。

我ながら、キザすぎやしないか(笑)


でも…
口元をまごつかせてる潤の恥ずかしそうな表情を見ると、…満更でもない、かな。








fin。



後書きは夜に。