Ｎ side
翔さんには何でもお見通しってことか。
キスされた唇を拭いて
起き上がる。
翔さんもオレに続いて
体を起こしながら
オレの手を握った。
「薄々気づいてはいたんだけど、最近変な夢見てるんだろ？」
「あー……、はい……。」
「さっきの取り乱し方は、もしかしてだけど、……その夢の続きだと思ったから？」
「そう、かも…知れません。」
違う。
取り乱したヤツは
オレじゃない方の夢の中の『ニノ』で
翔さんと付き合ってない方の『ニノ』だから。
そりゃ 向こうにしたら驚くよね。
付き合ってもないのにうちで翔さんと同じベッドで寝てるわけだし、翔さんのとろとろの笑顔と、とろとろの甘い言葉を掛けられたんだろうし、なんなら…キス…されそうになってるわけだし。
でもさ、オレだって確証がないわけ。
だから言えないよ、こんな事。
「本当に？」
「…はい。」
唇に指を当てて考える翔さんは
1度首を傾げてオレを確かめるように
じっと見た。
「もし、そのニノが赤の他人だとしたら？」
「は？…や、そんなことわるわけないでしょ、赤の他人？ …じゃあ、オレは何？どこのニノなの？おかしーじゃん、そんなの。どー考えたって。」
「なるほどね。…じゃあさ、確認だけど、今のニノは、もしかして俺のニノで合ってる？」
翔さん、真面目に言ってるけど
オレは内心嬉しくて。
翔さんから『俺のニノ』なんてパワーワード、こんな時じゃないと言ってくれないよね。
でもさ、その反対は『俺のじゃないニノ』とでも言いたいのだろうか。翔さんは薄々気づいてはいたって言ってたけど…何を気づいていたの？
「…はい。翔さんのニノです。」
「じゃ、さっきも俺のニノ？」
「…はい。もちろん。なんですか、さっきから『俺のニノ』とか何言って…」
「じゃやっぱ、さっきのニノにキスして正解だったか。」
「は？！したの？アイツに？」
「？、アイツって誰？」
翔さんの手に、グッと力が入った。
俺を見据えるように見てて
それから
ふぅ…と深いため息を吐いた。
「多重人格？それとも、他に何がある？ニノが俺に言えないのは一体なに？何を隠しているの？」
「か、隠してないよ。」
「この期に及んでどこの口が…」
また、くちゅりと唇を奪われた。
頭の後ろに手を回され
逃げないように腰も腕が回された。
身動き出来ないほど腕に力が入ってて
翔さんの感情のままに口内を荒らされる。
「待っ…て、 しょ…、ん、むぅっ」
絡まる舌に翻弄され
どうしたって気持ちがいい翔さんとのキス。
ね、さっきしたって本当？
アイツともこんな えちぃキスしたの？
それとも当てるだけ？
ね、翔さんのその唇で
アイツに本当にキス…しちゃったの？
オレからも翔さんの首に腕を回し
求めるように深く深くキスをした。
ふいに1度唇を離されたと思うと
脇の下に手を突っ込まれ、抱き上げられながら翔さんのあぐらの中に抱き込まれた。
「ニノ、俺の目を見て。」
「ん…」
「俺とのキスは気持ち良かったですか？」
「ん。」
「じゃあ、さっき嫌がってたのは？」
「ね、本当にしたの？オレと？嫌がってんのに？」
「知ってるくせに。」
含んだように微笑む。
また、キスをするように顔を近づけてくる翔さんの顔に、手のひらを当てた。
「知らない。それ、オレじゃないし。」
「だよね。…じゃあ、誰？」
「オレ。…じゃないけど、…オレ。」
「ニノ……？」
「翔さんさ、薄々気づいてたって何？何があった？ね、オレとどんな会話してたの？」
「なんでニノの方が混乱してんだよ…。俺の方が混乱してんだぞ。」
翔さんはトンと力を無くすかのように
オレの首元に顔を埋め
また、ため息を吐いた。
「ニノが隣りで寝てる時、たまに『くぅん』とか『きゅーん』とか寝言言ってて可愛かったんだけど、今日は目が覚めたかと思うと『なんで翔さんがここに居るんですかっ』って後ずさってて。と言ってもベッドの上だから俺から離れる的な感じで…」
「え、オレ、くーんとか、鳴いてたの？」
「あぁ。…それは可愛かったけど。」
「じゃあ、夢であってんだ。」
「……何が？」
「や、オレが犬になった夢の話。」
翔さんが顔を上げて
オレを訝しそうに覗き見た。
「そんなに何度も見る？犬の夢？」
「んー、今日で3回目。」
「…確かに。ニノのくーんも3回くらい聞いてる気がする。」
「じゃあさ、今までもよそよそしいオレが起き上がったりしてた？」
「いや。今日だけ。」
「マジで？」
「マジで。」
わかんねー。
夢の中のオレ、
なんで今日だけ出て来たんだろう。
それに、オレのわんこの時間は
今回のが1番長かった。
それはアイツがこっちのオレとして目覚めてたからじゃないの？だからオレは戻って来れなかったってこと？
じゃあ、このままだと
いつかオレは夢の中でずっと
わんこのままでいなきゃいけなくなる日が来る…とか？
