【翔×主/続き】ラワンデル ~勿忘草 その後~ ① | 妄想小説?と呼べるのか否か

妄想小説?と呼べるのか否か

艶が~るに関する内容です。

※大変遅くなりましたが、販☆お申し込みの方へメールを送らせていただきました。

ご確認のほどよろしくお願いいたします。


さて。こちら、ブログで公開している『勿忘草』 の続編です。艶展でも出させていただきました。

タイトルになっているラワンデルとはラベンダーのこと。花言葉は『あなたを待っています』

この話の前身となる勿忘草の花言葉は『私を忘れないで』

勿忘草は主人公の思い。ラベンダーは翔太の思い。そんな所から、タイトルをつけさせていただきました。

なんて、どうでもいい知識はさておき、お話は何話かに続きます。

よろしければご覧ください。


…どうでもいいけど、公開するにあたって、過去の自分のブログ読み返したんだ。

なんていうか……テンションたっけええええええええwwwwwwwうえwwww

読んでて恥ずかしくなったのはここだけの話です。


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『ラワンデル』~「勿忘草」その後~





真っ青な空。遠くに佇む入道雲。太陽の熱が肌を焼く、8月。夏休み。
ここ数日、外の気温は人の体温並みに上昇しており、外に居るだけで体中の水分が抜けていく気さえする。
そんな中私は、遊びの誘いには乗るものの、この暑さのせいで外に出るのも憚られ、それ以外の日は家で静かに過ごしていた。


京都から帰って来た日から、翔太くんとはいわゆる、「お付き合い」というものをさせてもらっている。だけど、学校ではいつもの5人で話し、行き帰りや休日は翔太くんが部活ということもあって、なかなか二人っきりになるということもなかった。
それでも、久しぶりに5人で話すということも、彼のバスケ姿も見ることもすごく懐かしくて……色々と話したいことはあったけれど、今はそれもいいと思って、夏休みまでの日々を過ごしていた。
そうやって過ごす日々の中で、一つだけ驚いたことがある。それは以前に比べて、はるかに携帯を使わなくなった事だ。
あの時代で毎日を生きてきて、いつしか『文を書く』ということが、私の中では当たり前のことになっていて。前はメールの返信が来なくて、「何か変な事でも書いたかな……」と不安になってしまったこともあったけど、今は大して気にも止めなくなっていた。
だからこそ、翔太くんとメールや電話をしなくても、あの幕末の頃よりも学校などで顔を合わせることが多くなった分、特に不安がることもなくて……と、こんな話をしたら、莉奈に、「熟年夫婦じゃないんだから」と突っ込まれた。……確かに、自分でもそう思わない事もないけれど。


話を戻す。
だから夏休みに入って、バスケ部の夏練習のせいで会えなくても、少しのメールと電話、後はたまに会えていれば、私にとってはそれでよかった。
事実、翔太くんとは、たまの部活の休みの日とかに外でデートしたりもしていて、その時にあの幕末での日々の事なども少しは話していたりもしていた。
だから、不満なんてものは何もない。
ただ、大好きな人と一緒にいることが出来る。私はそれだけで十分幸せだった。


だけど、この日だけは違っていた。






『明日、家に来ない?』


8月の最後の土曜日。私はリビングで一人、大きなソファーに腰掛けながら、携帯をじっと見つめる。そこに書いてあるのは、たった、その一行だけの文章。昨夜、突然、翔太くんから送られてきたものだ。
男の人からすれば、文章としてみれば十分に簡潔的で、何の問題もない物だったと思う。
だけど、彼からのメールとして見れば、あまりにも不可思議ではあるとも思った。

(……これって、どういう意味なんだろう?いや、でもきっと、深い意味なんてないはずだよね。……うん、翔太くんだし……)

携帯をテーブルの上に置き、言葉とは裏腹に五月蠅い心臓を落ち着かせるために、ソファーに横になる。だけど、無理矢理自分を納得させてみても、やっぱり気になるものは気になってしまうわけで。
もう一度手に取り、ボタンを押してディスプレイを見る。かといって、何度見返したところで文字列が変わるはずもない。
それに、こんなことをここで考えていても、正解が出るわけがない事も分かっている。
だからこそ、「行く」という返事と、時間的な事だけはメールしたけれど……彼が前後に何の前置きもなく、こんなメールのみを送ってくるということに、私は疑問を感じられずにはいられなかった。

(……でも、本当にどういう意味なんだろう。いや、でもあれだよね。多分、意味なんて本当にないし、期待しているようなことは何も……って、期待って!)

頭をぶんぶんと横に振って、一度大きく深呼吸をしたあとに、天井を見上げる。
目に入った時計が表示する時刻は、朝の10時半。待ち合わせの時間は13時。
残り時間は2時間半もあるのに、緊張のせいか、私の胸は一向に落ち着くことが出来なくて。
支度なんてものは、とうの昔に終わっている。
母から出されたお茶を飲んでいても味が分からない。延々と垂れ流される、いつかの再放送のドラマを見ていても、何の感情移入も出来ない。朝ごはんも中々喉を通らなかったし、お腹も空かない。だからといえども、このままの状態を2時間も続けている訳にはいかない。

(うーん……何かしてれば気がまぎれるんだけど……何か……何か…………?)

何かないかと思考を巡らす。だけど、緊張しきった頭では、何か案が出てくるはずもなくて。
仕方なく、携帯の代わりにリモコンを手に取り、チャンネルを適当に回す。
だが、そんな時。あるCMの最中に、一つの通販番組が私の目に入った。

(……あ、そうだ)

ソファーから立ち上がり、テレビの電源を切る。
私はそのままリビングに背を向けると、キッチンへと向かったのだった。





「いってきます」。そう玄関で声を出す。リビングの奥の方から、母の「いってらっしゃい」の声が聞こえたのを確認して、扉を閉めた。
久しぶりに履いた、少し踵が高めのサンダルに足を取られながらも、彼の家を目指す。
今日も雲一つない晴天。まだ出て数分なのに、背中を汗が伝うのを感じる。保冷剤を入れてきたけど、大丈夫なんだろうか。そう思って、手元の箱に空いた手を添える。よかった、まだ保冷剤も溶けてはいないみたいだ。
そんな暑さの中――それでももう9月に近いからなのか、時折涼しげな風が吹いて、私のスカートをひらひらと揺らす。
それだけでも幾分か心地よさは変わるものだと、裾を押さえながら、思った。


毎日毎日、6年間もの間通った、小学校までの道を辿る。彼の家はその小学校のすぐ近くで、仲が良かった頃は、学校帰りに何度もお邪魔させてもらっていた。
一歩進むたびに、あの頃の思い出が鮮やかに蘇る。だけど、5年も経つと、やはり――少しだけではあるけれど、街の雰囲気は変わってしまっていた。
翔太くんとブランコをして遊んだ公園。お花を摘んで、花の冠を作った野原。
鬼ごっこをして遊んだ噴水広場。夜中にこっそり抜け出して、星空を見上げた駐車場。
それらが全て住宅地や区画整備で無くなってしまっているのを見て、ようやく翔太くんの家に着いた頃には、さすがにちょっと感慨深くなってしまっていた。
―…が、しかし。インターフォンの前に立った瞬間、そんな思いも吹っ飛ばされる。
真っ白な二階建て。車庫と庭が付いており、庭にはいつも手入れの行き届いた色とりどりの花が咲き乱れている。
そんな翔太くんの家に着いたはいいけれど、どうやって挨拶をすればいいかを考えてはいなかった。浮かれすぎにも程がある。

(……そうだよね、家に行くってことは、ご家族の人も居るわけだし、きちんと挨拶をしないわけにもいかないし……。えっと、何て言えばいいんだろう?「お久しぶりです、○○です」?それとも、「○○と申しますが、翔太くんはいらっしゃいますか」?……うーん……)

鞄に付いている時計を見る。時刻は12時55分。ここで悩んでいる時間はない。
というか、もたもたしていたら、箱の中の保冷剤も溶けてしまう。

(ええい、押しちゃえ!!なんとかなる!)

目を瞑って、勢いよくボタンを押―――そうとした瞬間、突然玄関の扉が開く。
誰か家族の人が出てきたと思って、慌てて身なりを整える。そうして深々とお辞儀をしながら、早口で私は言葉を発した。

「あの、お久しぶりです!私、昔よく遊びに来させていただいておりまして、現在翔太くんとお付き合いさせていただいております、○○と申します!翔太くんのことは大好きで、えっと、これからもずっと傍にいさせて頂けたらなんて!ああ、えっと、よろしゅうお頼申します!」


瞬時に、さあっと血の気が引く音が聞こえる。同時に、冷や汗が伝う感覚がする。
「お頼申します」って、何。
ここはお座敷でもないし、京都でもない。ましてや、私は京都の人でもなんでもない。
そして、一体私は何の告白をしているんだ。好きだと伝えてどうする。
しかも、よりにもよって、初めての彼のご家族への御挨拶がこれって……すごく怪しいにも程がある。というか、お久しぶりも何も、私の事覚えていない可能性もあるというのに……。なんとかなんて、これっぽっちもならなかった。


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その②へ続く。