源氏物語イラスト訳【紅葉賀165】夕立して
夕立して、名残涼しき宵のまぎれに、温明殿のわたりをたたずみありきたまへば、この内侍、琵琶をいとをかしう弾きゐたり。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には少し興味を持って、ちょっかいを出しています。
源氏物語イラスト訳
夕立して、名残涼しき宵のまぎれに、
訳)夕立が降って、その余韻の涼しい夕闇に紛れて、
温明殿のわたりをたたずみありきたまへば、
訳)温明殿の辺りをうろつきまわっていらっしゃると、
この内侍、琵琶をいとをかしう弾きゐたり。
訳)この源典侍が、琵琶をとても趣深く弾いて座っている。
【古文】
夕立して、名残涼しき宵のまぎれに、温明殿のわたりをたたずみありきたまへば、この内侍、琵琶をいとをかしう弾きゐたり。
【訳】
夕立が降って、その余韻の涼しい夕闇に紛れて、温明殿の辺りをうろつきまわっていらっしゃると、この源典侍が、琵琶をとても趣深く弾いて座っている。
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■【夕立す】…夕立が降る
■【て】…単純接続の接続助詞
■【名残(なごり)】…余韻。影響。なごり
■【涼しき】…シク活用形容詞「すずし」連体形
■【宵(よひ)】…夜。夕闇
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【まぎれ】…気が紛れること。見分けにくいこと
■【に】…時(場所)の格助詞
■【温明殿(うんめいでん)】…平安京内裏の殿舎の一つ。紫宸殿(ししんでん)の東北、綾綺殿(りようきでん)の東にあり、三種の神器の一つ、神鏡を安置する賢所(かしこどころ)がこの中にあった。常に内侍(ないし)が伺候していたので、「内侍所(ないしどころ)」とも
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【わたり】…あたり
■【を】…対象の格助詞
■【たたずみありく】…あちこち立ちどまっては、歩いてゆく。うろつき歩く
■【たまへ】…ハ行四段動詞「たまふ」已然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【ば】…順接確定条件の接続助詞
■【内侍(ないし)】…源典侍(げんのないしのすけ)のこと
■【琵琶(びわ)】…弦楽器の一つ。木製の楕円形(だえんけい)の平たい胴に、四本または五本の弦を張ったもの
■【いと】…とても
■【をかしう】…シク活用形容詞「をかし」連体形ウ音便
※【をかし】…趣深い。すばらしい
■【ゐ】…ワ行上一段動詞「ゐる」連用形
■【たり】…完了(存続)の助動詞「たり」終止形
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GWも終わり、そろそろ夏が近づいてきますね。
夏といえば、梅雨。スコールが降ったりもします。
雨上がりの風情が、いちばん感じられる季節ですよね。
今回出てきた「温明殿(うんめいでん)」というのは、平安内裏の御殿(大奥)の1つです。
紫宸殿 (ししんでん) の北東、綾綺殿(りょうきでん)の東にあり、賢所(かしこどころ)として、
神鏡が安置されている、神聖な場所です。
ここは、内侍たちが常に控えていたので、
内侍所(ないしどころ)とも呼ばれます。
夕立のあと、この神聖な場所で、
源典侍が、美しくおごそかに、琵琶を奏でています。
光源氏は、この源典侍の年甲斐もない、色好みの性癖に、「もの憂さ」を感じていたワケですが、
こういう情趣ある状況に、少しほだされて、
源典侍に、ちょっと気が惹かれていくような展開!
さて、今後どうなっていくのでしょうか?
期待してみましょう!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
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