源氏物語イラスト訳【紅葉賀162】つれなき人
「かのつれなき人の御慰めに」と思ひつれど、見まほしきは、限りありけるをとや。うたての好みや。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には少し興味を持って、ちょっかいを出しています。
源氏物語イラスト訳
「かのつれなき人の御慰めに」と思ひつれど、
訳)「あのつれない源氏の御気晴らしに…」と思ったけれど、
見まほしきは、限りありけるをとや。
訳)(彼女が)本当に関係を結びたい人は、彼(源氏)だけにあったよとか。
うたての好みや。
訳)困った選り好みだこと。
【古文】
「かのつれなき人の御慰めに」と思ひつれど、見まほしきは、限りありけるをとや。うたての好みや。
【訳】
「あのつれない源氏の御気晴らしに…」と思ったけれど、(彼女が)本当に関係を結びたい人は、彼(源氏)だけにあったよとか。困った選り好みだこと。
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■【かの】…あの
■【つれなき】…ク活用形容詞「つれなし」連体形
※【つれなし】…薄情だ。つれない
■【人】…光源氏をさす
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【御―】…尊敬の接頭語(頭中将⇒源典侍)
■【慰め】…なぐさめ。気晴らし
■【に】…目的の格助詞
■【と】…引用の格助詞
■【思ひ】…ハ行四段動詞「思ふ」連用形
■【つれ】…完了の助動詞「つ」已然形
■【ど】…逆接の接続助詞
■【見】…マ行上一段動詞「見る」未然形
※【見る】…男女関係を結ぶ
■【まほしき】…希望の助動詞「まほし」連体形
■【は】…取り立ての係助詞
■【限り】…それだけ。ここでは、ただ光源氏だけ、の意
■【あり】…ラ変動詞「あり」連用形
■【ける】…過去の助動詞「けり」連体形
■【を】…詠嘆の間投助詞
■【と】…引用の格助詞
■【や】…疑問の係助詞(結び「思ふ」の省略)
■【うたて】…困ったことに
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【好み】…選(え)り好み。望み
■【や】…詠嘆の間投助詞
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近年のグローバル社会・多様化社会において、
もっとも重要な資質って、なんだと思います?
英語力? 論理力? それともプレゼン力かな?
…いろいろあると思うんですが、わたしは、中でも、
【共感力】
がもっとも重要ではないか、と思っています。
共感力。これは、Sympathy(シンパシー)ではなく、empathy(エンパシー)のほう。
異なるバックグラウンドをもつ人びとと、表面的に意見交流しても、真のコミュニケーションは成り立ちません。
いろんな価値観を尊重して…
他者との共生をはかり…
言葉ではわかっていても、実際にそれができるかっていうと…、カンタンじゃありませんよね。
「ふん、わかってるよ。自分のことだけじゃなく、
世の中を、客観的に見ていくってことでしょ!」
いやいや、…そうじゃなくて…、
歴史的背景を教養として知り、それを自分の文化と照らし合わせて、客観的に分析したら…、
「フーン。…人それぞれなんだね。」
十人十色。チャンチャン!
…で、終わってしまいますっ;;
では、いったいどうすればいいのでしょうか…?
アメリカの哲学者・リチャード・ローティは、他者共生のためのエンパシーを鍛えるには、理論(哲学)ではなく、文学作品に触れるのがいちばんだと提唱しています。(NHK「100分で名著」より)
古文における、この「見る」という動詞は、
現代の日本語では、たんに「見る(watch)にすぎませんが、
英語の「見る」は、「see」でもありますよね。
そして、日本古文においては、
「see=会う⇒逢う(男女関係を結ぶ)」
という意味にもなるんです。
これは、平安当時の日本の慣習を考えたら、おのずと理解できますし、
「見る」(古語)=結婚する
と、知識として覚えている人も多いと思います。
ですが、ここで、頭中将や、源典侍の置かれた状況や心情に、共感できます?
熟年を過ぎたおばあちゃんだけど、尽きない欲情に興味が湧いて、頭中将は源典侍と関係を結びました。
「薄情な源氏に代わって、慰めてあげましょう」
…まあ、いつの時代も、男は一緒ですから、この状況は「分かる~」っていう人も多いかもしれません。
でも、このときの源典侍は――。
イケメンの頭中将に言い寄られて関係を持ったものの、ほんとうは、光源氏ただ一人だけと、関係が持ちたかったのです。
じゃあ、なんで頭中将と関係持ったんだよ!
って、ツッコミ入れたくなっちゃいますよね~!
この部分の深い洞察。
短いブログでは、書ききれないので、
みなさんも、いろいろ想像力を膨らまして、
エンパシーしてみてくださいねっ!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。