翔(法学部3年)
雅紀(教育学部2年)
嵐人の世界線ですが、あの人たちと邂逅するかは今のところ不明。荒削りのまま世に出すのつらい←
みっかほどで完結予定の短編です。
七夕に参加したくて…わたしってばまた見切り発車を…
通し読みまだなので()オチ変わるかもしれないけどこれだけは言える。ハピエンです!
* * *
エンカウント
#1
「なに、泊まってかないの?」
「今日は夜バイトあるから…」
「……ふぅん、そ」
じゃあ気をつけて、と布団のかたまりから伸びた手がひらりと揺れる。
ワンターンも名残を惜しまれないなんて淡白というか、関心のなさを隠す気もないというか。
あまりの素っ気なさに玄関先で苦笑する。
彼に引き留められたことなど今まで一度もなかったが、自分がもし女の子なら、この場で泣き崩れていたとしてもおかしくない。
「あ、俺来週から実習。暫く家いないと思う」
「そうなんだ、わかった」
いないから訪ねて来ても相手はできないという意味だろう。奔放そうに見えてこういうところは律儀な人だ。
連絡を寄越すのはいつも彼で、呼ばれもしないのに雅紀はここに来たりしない。
だから別にスケジュールの申し送りは不要だったし予定を彼に伝えたこともなかったのだが、
わざわざ言及するのも気を悪くしそうなので大人しくこくりと頷いた。
おもむろに煙草に手を伸ばし気怠げにパソコンを起動させた彼を一瞥して、たいして中身のないリュックをよいしょと背負う。
「翔ちゃん。寝タバコ危ないよ?」
「わかってるよ、一本だけ」
雅紀がいるときはベランダで吸うことが多いので、一応気は使ってくれているらしい。
雅紀の方から離れてしまえばどうなるのだろうと、ふとした拍子に思うことがある。
もう来ないから呼ばないでくれ。もしくは、オレも忙しくなるから呼んだってもう来れないよ。
そんなふうに伝えて踵を返せばすぐに終わる細く薄い繋がりだ。後腐れもなにもない。
またねと手を振る要領で、この妙な関係を清算できたらどんなにかすっきりするだろう。
心に穴のひとつくらいは開くかもしれないが…
「ねぇ、翔ちゃん」
「ん?」
「…やっぱいい」
「なんだよ」
「なんでもない。忘れちゃった」
できもしないことを考えて、痛んだ胸をぐっと押さえて首を振る。
まったく不毛で意味のない…
自虐的な想像で自ら傷つくなんて子どもじゃあるまいし痛々しいことこの上ない。
「鍵は閉めて寝なよ。じゃあね、」
「んー」
カシュ、カシュッ…カシュッ。
鑢の擦れる小気味いい音につづき、メンソールの先がしゅぼっと燃える音がする。
あのライターは間に合わせで、雅紀があげたものだった。
バイト先のコンビニで売ってる、よくある100円の使い捨てライターだ。ちゃちな色合いの容器の中、ガスはそろそろ底をつく。
『新しいやつ買わないの?』と聞けば、『別にいい。気に入ってんだよ』とそっぽを向かれた。
こだわりがないようで、あるようで、どちらでもない。翔のことだから恐らく、代わりを探すのが面倒であるものを使っているだけだ。
わかってはいても──この音を聞くたび喜んでしまう自分が、時々心底嫌になる。
認識できてるだけマシ、と思わなければやってられない。
変な望みをかけて一喜一憂するのはあまりにも愚かだと気づいていたし、どっちみち、
「……おやすみ」
あと数回で炎はつかなくなるだろう。
つづく