愛のかたまり 64 | BLの嵐´・∀・)`・3・) *'◇').゚ー゚)`∀´)妄想小説@櫻葉

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#64


#63









広い浴室は今夜、マサキの貸切らしかった。


固まった気持ちがたっぷりのお湯に溶けていく。

肩まで沈めて肺から息を吐き出せば、気の抜けた呻き声までエコーが掛かって跳ね返るのが面白い。



「んはぁきもちー」



全身を包みこむ柔らかい水圧に身を委ねると、指先からじわりと解けて弛緩した。


与えられた部屋で寝転がっていただけなのに慣れない場所で知らずに緊張していたらしい。

というよりも、待つだけというのがどうも、びっくりするほどマサキの性には合わないのだ。



「殿下のバカ…オレだけのけ者にすんな…っ」



うわんうわんと『殿下のバカ』が反響する。


ほんのちょっぴり気分が上がり楽しくなったが、調子にのって「きらいだ」と付け加えたら思いのほか鼓膜に響いて身がすくんだ。



「うそだよ……ごめん。きらいじゃない…」



濃密な湯気の中、情けない泣き言を繰り出しても咎めに来るような見張りはおらず、

いつもなら世話を焼くため近くに控えているフウマとケントも今日はいない。


扉の外には仰々しい兵がいるとはいえ、完全にひとりになれるのはよく考えたら久しぶりだ。



「変な感じ。見られてない方が気楽なのに」



ショウの庇護、もとい監視の目が減り、マサキの自由度がここに来て上がっている。

ショウにとっては恐らく不本意な事態なのだろうと思えば、束の間の開放感を楽しむより心配性な主の精神状態が気になった。



「殿下……機嫌は別に、悪くはないのかな? お風呂の許可もすんなりくれたみたいだし」



息咳きって走ってきたフウマの様子を思い出す。


てきぱきとマサキの着替えを用意して「おせなか流せなくてごめんなさい。おれ今でっ……しごと中なので戻りますね!」と風のように去った彼は、なにやら忙しそうで生き生きしていた。



オレもなんか仕事したいな……」



考えるまでもなく、マサキは誰の、なんの役にもたっていないお荷物だ。

そもそもショウに仕えるためだけに召されたのに求められなければ仕事などない。

妃としての、存在意義も無いに等しい。



「殿下、



今夜も彼は、律儀に薬を塗りにきてくれるつもりだろうか。

…無理か。きっと朝まで戻って来れない。



「別に、それくらいひとりでもできるけど」



ショウがやらせてくれなかっただけで、自分でやってもあんなの五分もかからない。



「こう、だっけ? 量もこれくらいで…」



やり方だってわかるし、そもそも見えにくい場所なだけで塗布するだけなので簡単だ。


ショウはいつもマサキを左に横臥させ、右足を胸に抱え込ませた状態で尻の肉をぐっと掴み、息のかかる距離で粘膜にちょんと軟膏を乗せてくれた。



「んっ……なんか、つめたぁ」



冷たさなんて感じたことがなかったので驚いた。


ショウの手のひらで温められたそれはマサキのそこにすぐさま馴染み、とろとろとした感触が患部にじわりと溶け込んで心地よく、

マサキは枕を抱きしめているだけで、ふだんは勝手に事が済んでいたから…



「っ…う、すべる」



反応して重くなった袋とゆるく立ち上がった前までも伝った水気でしっとりぬれる。

手に負えないくらいぬるぬるになって、こんなふうにいつも、マサキはショウの美しい手を汚してしまう。



「っ……あ、ぁ殿下……



孔を縁どるように指先がくるくると一本一本ひだを撫でる。粘り気を足すために軟膏を掬い、中心を左右に拡げられたらマサキはもう荒い息を隠せない。


腫れもなく、傷もない。

ひくつくそこをショウは指でふにふに撫でて、柔らかさを確かめるように摘んで、突いて、それで終わり。



毎夜の「治療」は昨日まで欠かさず続いていた。



「んあっ



爪先が埋め込まれるとびくっとして、身を縮ませたマサキにショウは「大丈夫か?」と低く問う。

大丈夫だからそのまま奥まで触れてほしいと願いつつ、マサキは目をきつく閉じ枕をぎゅっと抱きしめる。



「でんかの…バカ」



マサキは男なのだから、そこまで繊細に扱う必要なんてない。好きなようにしたらいい。今度こそ、奥まで傷つけてくれたって構わないのに。



ずるっと引き抜いた己の指は膏薬のせいでねっとり鈍く光っていた。恥ずかしくなって慌ててお湯でざぶざぶ洗う。


毎晩欠かすことなく中途半端に熱をもたされて、そのまま鎮めることも出来なくて。

それでも自分で自分を慰めるなど、しかも、現実にあったショウの行いを辿って反芻するなんて虚しすぎるのに、やってしまった。



「うぅ……オレの体こんなじゃなかったのに、殿下のせいだよぜったい。最悪だ……



情けない文句とため息ばかりがこぼれ出る。


うしろだけ、己の指だけではマサキはうまく達せない。兆したままのそれはお湯の中で上を向く。

持て余した身体の熱を冷ますために、仕方なく、そろりと前に手を伸ばせば──



ふいに、呼吸が楽になった気がして手を止めた。漂う湯気がさっきよりも随分と薄い。



「なんかドア、開いて……?」



空気の流れを目で追ったマサキは、そこに立っていた人物のせいで危うくひっくり返りそうになった。



「おわりか? すっきりするまで続けていいぞ」


「なっ……ん、でっ…いつからそこで見て…」

「殿下のバカ、ダイキライ! てあたりから?」



ほとんど最初から……というかなんで、彼がわざわざこんなところにいるのだろう?



「ダイキライとは言ってません…」

「ん。うそって言ってたもんなぁ」



ふにゃんと笑った新皇太子の、肖像画とは違う自然な笑顔にマサキは気が遠くなった。











つづく