パラレル第二弾!タイトルは「雪の降る夜」になりました♪
パラレルですので、それでもいいよ!という方のみお読み下さいませ。
ヨンの生きる時代は高麗。ウンスは現代。そんなパラレルです。
2
白い息を吐きながら、天界人がヨンの前を通り過ぎる。寒さ故だろうか、皆身体を縮ませて急ぎ足だ。
その様子をヨンはどうしたものかと眺めていた。
あれからしばらく数人の天界人に声をかけてみたが、誰一人としてヨンを見る人間はいなかった。初めは相手にされていないのだと思っていたが、どうやらそうではなかったようだ。
自分は見えていないらしい。いや、見えないだけではなく存在すら危うい。
先刻、誰かを捕まえなくては話もできないと、若い男に声をかけて腕を掴もうとしたときヨンは自分の目を疑った。するりと腕は通り抜け、触れることすらできなかった。その後も数人に触れてみようとするが、やはり手はすり抜けてしまって、唖然とした。
————一体何が起こってる?
確かに此処に存在しているのに、存在していない自分。死ぬことを恐れたことはなかったというのに、この状態はなぜか空恐ろしく感じてしまう。
そんな時だった。
「ああ!もう嫌になっちゃう!」
ヨンの耳に女人の声が飛び込んできた。
もはや声をかけるのは諦めていたが、ついそちらを振り向いて————目が奪われた。
鮮やかな紅い髪をふわりと揺らしながら、階段から姿を現したのは…少し赤い頬をした美しい女人だ。
だが、その容姿とは裏腹に顔からは怒りが見て取れて文句を口にしている。
「見てなさいよ!」
そう強い口調で言っているが、息を吐いて手すりにもたれると弱々しく項垂れた。橋から下をじっと眺める様子はどこか切なげで目が離せない。
————泣いているのだろうか…
どうにか涙を止めたいと思ってしまうのは一体何故なのか。おそらく自分のことは見えないだろうことは分かっているのに。
だが、その女人はふっと顔をあげたかと思うとヨンと目が合った。
————目が…?
ドクリと心臓が騒ぐ。まさか…と、はやる気持ちを落ち着かせてゆっくりと近づく。
「大丈夫ですか?」
そう尋ねると、少し恥ずかしげにしながらも小さく「大丈夫よ、ありがとう」と声が帰ってきた。
やはり見えていたのだと、驚きのあまりに目を見開いていると
「どうしたの?」
そう尋ねてきた。
「私が…見えるのですか?」
「見えるのかって…そりゃ見えるけど?」
「いえ…それよりも、泣いておられるようですが」
此処はどこなのか、自分はどうしたらいいのか…尋ねたいことはたくさんあった筈なのに、何よりも先に涙の理由を知りたいと思った。
「仕事で上手くいってなくって。ね、あなた今暇なの?」
「え?ええ…」
「ちょっと付き合ってくれない?此処に座って、ほら!」
そう言ってポンポンと自分の横に座れと催促してくる姿が可愛らしく映り思わず笑ってしまう。言われるまま横に座ると、持っていた袋からガサリと筒状のものを取り出し「飲みましょ」と言って地面に置いてきた。そうしてもう一本を取り出すと、綺麗な手でカシッと音をさせて筒状の物を開け、ぐいっと煽る。
酒らしいが、構造はどうなっているのだろうか。チラリと横を見たが、女はそれにかまわずポツリポツリと話出した。
女人にはただ話を聞いてほしいだけの時があるのだと叔母が言っていた。おそらく、そういうことなのだろう。
そうしてしばらく上司だのポストだのと文句を言っていたが話は半分も分からなかった。
「はぁ、ちょっとスッキリした。聞いてくれてありがとう」
「いえ」
はーっと白い息を手に吐きかけながら、女は空を見上げると「あ!」と言って手のひらを上に上げた。
その白い手に吸い込まれるはらりと落ちてきたのは、雪だ。
「見て!雪だわ。初雪かな」
すっと溶けてしまう結晶をどこか寂しげに眺める顔にドキリとしたが、くるりとこちらを向いた表情からはその儚げな色は消えていた。
「そう言えば、あなた名前は?私はユ・ウンスよ」
「高麗の武士、チェ・ヨンと申します」
「役になりきってるのね。近くで撮影なんてあったかしら?」
「役とは…?」
「まぁいいわ。チェ・ヨンね、オッケー」
ずいぶん酒がまわっているのか、先程よりも顔が紅くなっている。目もどこかボンヤリして潤んでいて…慌てて目をそらす。
「そろそろ酒は止めて…お帰り下さい」
これ以上見つめられては不味い気がした。
「もうあなたも帰るの?」
「私は…帰りたくとも行く宛がありませぬ故」
「行く宛がない?」
「高麗におったのですが、気づけばここにおりました。一体どうすればよいか、もし知っているのなら教えていただきたい」
「そっか、そうよね!チェ・ヨンだものね!」
くすくすと笑うウンスに訝しく思うが黙って先を促す。
「いいわ、教えてあげる。その服を脱いで元のあなたに戻るのよ。そうしたら帰る場所も分かるでしょう?」
「鎧を脱げと?」
「ええ、そうよ。役はもう終わり」
天界では鎧とは無粋なものなのだろうか。そう言われれば此処に来て鎧姿の物を一人も見ていない。だが、脱ごうにも他の衣を持っていないのだ。しかし役とは一体何をいっているのだろうか。分からないことだらけだが、楽しそうにしているウンスの表情は先程の泣いている顔よりも安心出来る。
「そうね。雪も降ってきたし、私もそろそろ帰るわ」
そう言ってウンスは立ちあ上がったのだが、途端によろりとふらついた。
「危ない!」
思わずヨンは手を伸ばすと、がしっとその腕を掴んで支えた。触れることができなかった筈だということを忘れてとっさに手を出したのだが、暖かい感触に驚く。
「ああ、ありがとう。飲み過ぎね」
手を離すとやはりふらふらと歩き出すウンスにため息をつくと、ヨンも後ろに続いた。このままでは帰り着く前にどこかで倒れてしまいかねない。
「…屋敷までお送りします」
続
夢魔ウンスの次はヨンがまさかの幽霊に(笑)
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