こんばんは。
本日はちょっと糖度高め。
シンイロミジュリ第三話、どうぞ〜。
カラリ…と扉の開く音がして、夜の庭園に明かりが漏れる。
開いた扉からそっと音を消して、廊下に出たのはウンスだった。
空には満点の星が輝いており、目の前にある庭の池には、その星屑がキラキラと映り込んでいる。月明かりが、ウンスの顔を優しく照らした。
信義のロミオと不屈のジュリエット3
ふぅっとウンスは小さく息を吐き、空を見上げた。ヒンヤリした空気が心地いい。
あれからもう幾月、何度ヨンと会っているだろうか。
あの日から三日に一度、必ずヨンは自分の元へ訪れ、チャン先生のところまで送ってくれている。
惹かれている自分を自覚するのに、そう時間はかからなかった。
「どうして、彼なの」
ウンスはぽつりと呟いた。
今まで誰を紹介されても、好ましく思える男の人なんていなかった。医師になるのだと決心したからだと、そう思っていた。
——————医師になるのを応援してくれているから?いいえ…それだけじゃ、ない。
それもあるかもしれない。だが、それだけで恋をするほど子供じゃない。
人混みでウンスを庇うように歩くヨン。
疲れているときはそっと歩幅を合わせてくれて。
一度だけ、ヨンが来れなかった時は彼の部下がきてくれたことがあった。その後に会った彼にはどこか張り詰めた空気が漂っていて——————。
思わず手を握ったウンスに、彼はほっとしたように小さく笑ったが、その笑顔にウンスの心臓は締め付けられた。
——————泣かないで
ヨンは泣いてもいないのに、何故だかそう思った。私が、彼の側にいなくては、と…。
後で分かったが、あれは彼が人を斬った時だったらしい。王に仕える武士として、きっと彼は己の信念の元にそうしている。優しい彼が人を斬って自分が辛くないはずないのに。
それでも、自分の顔を見ると優しく笑うのだ。
彼を知り、その優しさに触れるたび——————
「ウンス」と彼が自分を呼ぶ声を聞くだけで、涙が出そうになる。
***
扉の開く音がして、ヨンは身を潜めた。
ここはユ家の屋敷だ。明日は約束の日なのだが、急な仕事が入り自分も部下も行けそうになくなってしまった。明後日は行けるから一人では出歩くな、と伝えるため忍んできたのだ。
さぞかし驚くだろうと、そのウンスを想像してヨンはふっと笑う。
—————それにしても、警護が甘すぎる。
すんなりとここまで来れたことに、ヨンは眉をひそめた。これは一言ウンスに苦言を…と考えていたところで、扉が開いたのだ。
一瞬ギクリとして身を隠したが、扉から出てきたウンスの姿に安堵の息をつき、声をかけようとして——————目を奪われた。
空を見上げたウンスの瞳は切なく揺れ、ため息がやけに色を感じさせた。
その姿は自分がよく知っている元気なウンスとかけ離れていて————。
心臓が音を立てる。
あんなウンスは知らない。
いつものウンスは無鉄砲で活発で。
自分を見つけると、ぱっと輝かせた表情をするウンス。
ふふっと笑いながらも、強い瞳を持っていて。
いつだったか、人を斬った後にウンスと会ったことがある。ウンスはただ優しく笑って、元気になれるから大好きなのだと、黄色い花をヨンの胸に刺した。そうして、ヨンの冷たくなった手を握って「わ、つっめたい!」と言いながら熱を分けてくれた。
任務を完うすることに迷いはない。それでも、いつも人を斬った日は心がざらついて、一日中落ち着くことはなかった。
だというのに、その温もりはすっと冷えた心を溶かすようで———。このままもうしばらく、こうしていて欲しいと…
その時のウンスを思い出していると、ぽつりとウンスの声が耳に届いた。
「どうして、彼なの」
ざわりと胸が騒いた。
————彼…だと…?
一体誰が、あのような顔をさせているのか。
————俺以外の、誰が!
そこまで考え、はっとする。
————俺は、一体何を…
ああ、そうか。
俺はウンスを——————誰にも、渡したくないのだ。
***
がサリと音がして、ウンスは慌ててそちらを見た。だが、影になったそこは闇色が濃くて何も見えない。
「誰か、いるの?」
その声に、まるで闇の中から出てくるように、ヨンが姿を現わす。
「チェ・ヨン!?あなた一体ここで何して!?」
はっと口を押さえたウンスは、見つかってはまずいと慌ててヨンを部屋に引き入れる。
「それで、あなた一体…」
「誰です?」
「え?」
「そのように焦がれるなど、一体誰を思うておったのですか」
「こ、焦がれるって」
まさか本人に聞かれるとは、とウンスは慌てる。じりと近寄ってくるヨンに後ずさるが、手首を掴まれ壁に押し付けられてしまう。
「貴女にそのような顔をさせるなど!」
「ま、待って」
「言うまで離しませぬ」
じっと見つめられ、ウンスは何も言えなくなる。自分を見る瞳の奥にはゆらりとした熱が宿っていて————目を逸らすことが出来ない。
「俺では————駄目か?」
「————え?」
一瞬、ウンスは耳を疑った。
————彼は今なんて言った?こんな都合のいいこと、あるはずが…
ポカンとするウンスをどう捉えたのか、ヨンは握る手に力を込めた。
「ウンス、俺は貴女を————離したくない。俺にずっと、守らせてくれぬか」
「チェ・ヨン…」
ウンスの瞳に涙が滲む。
「あのような顔をさせる男など…」
「でも、私はその人がいいの。強くて優しくて、優しすぎる人だから、放って置けないの」
「されど…」
「貴方のことよ、チェ・ヨン」
ヨンの目が驚きに丸くなる。
ウンスの涙に濡れた瞳が、嬉しそうに笑った。その瞳は星が落ちてきたように輝いていて。するりとヨンの手から手首を抜くと、そのままヨンの胸にそっと身体を寄せる。
戸惑うようにして、だがやがて、しっかりとヨンの腕はウンスの背にまわされた。
窓の格子から入る月の光りが二人を包み、かすかに虫が鈴の音を響かせる。
すり…と胸に頬を寄せるウンスの頭にそっと口付けると、ウンスが顔を上げた。どちらともなく小さく微笑んで————
二人の距離がなくなった。
続
エンダアアアアアイアアアア!!(゚∀゚)!!