こんばんは( *´艸`)♪

こんなお話を考えてみています。続くかはまだ未定です!笑

 

 

 

1

 

 

「あ、おじさん!これ、これもう少し安くならない?」

「うーん、それでも安くしてるんだがなぁ」

「ならいいわ、他の店で買うから」

「ちょっと待った!別嬪さんには特別だ。こんなもんでどうだ?」

「うーん、もう一声!」

「なに?…しょーがねぇな、じゃあこれも付けてやらぁ」

「さっすが!ありがとう、おじさん!」

 

 長い髪を風になびかせ、ウンスは自分を店先で待っているヨンの元に駆け寄る。

 

 道はたくさんの人であふれ、活気ある声が響いていた。人の流れを挟むように連立する店先には、食べ物や衣類、アクセサリーや武具まで何でも揃っているようで、見るだけでも心が躍る。あちらこちらから良い匂いがして、買い食いしている者もいれば、朝日が昇って数刻しか経っていないにもかかわらず、酒を飲んでいる者もいた。

 

 目当てのモノを安く手に入れたウンスは至極上機嫌で、ヨンはそんなウンスを見るのが買い物での秘かな楽しみになっている。

 

 女人はとかく買い物に熱意をかけるもの。いかに安く欲しいものを手に入れるかが勝負なのだと、ヨンはウンスに言われた事がある。

 

 あまり金にもモノに頓着しないヨンは、いまいちその感覚がよくわからない。

 以前市場で買い物をしていた時、商人の言い値で購入しようとしたところを見られ、ウンスに怒られてしまった。

 武具や装具等の仕入れでの取引ではヨンとて妥協しない。しかし、市場での小物を買う程度であれば、とつい思ってしまうのだ。だが、それを言うと余計に怒られる事は想像に難くないので黙っている。

 

「嬉しそうですね」

「ええ!すごく安く手に入ったの。私って昔から、値切るのは上手だったのよね」

 

 確かに、ヨンの目から見てもウンスは値引きさせるのが上手い。あっという間に店主と親しくなったり、少し甘えてみたり。…男が鼻を伸ばしているのを、後ろから自分が睨んでいることはおそらく気づいていはいないだろう。

 

「では、そろそろ行きましょう」

 

 今回のお目当ては、ウンスの調製する美容用品の材料と物見だった。

 物見とは、ヨンが訓練の休憩中、部下との雑談の中でこんな話を聞いたのがキッカケだ。

 

 

 

「隊長、ご存知ですか?旅芸人のこと」

「旅芸人?何の話だ?」

「話題の旅芸人が高麗に来ておるのです。噂によると、歌い手がとても不思議な旋律を奏でるとか」

 そう話していると、先日休暇をとったばかりの部下がやや興奮気味に話に入って来た。

「その噂を聞いて見に行ったが、まさに噂通り!」

「本当か!?どんなだ?」

「歌い手は男なのだが、なにやら不思議な歌でな。恋人への思いを歌うものだったようだが、所々意味の分からぬところもあった。だがその者だけでなく他の芸人の舞等もすばらしくて、

一見の価値はあるぞ」

 

 「特にその中の踊り子が美人でなぁ」という発言に周りの者達が話に食らいつく。元々は自分に声をかけられた話題だったのだが、勝手に部下達が盛り上がってくれたお陰で詳細を知る事が出来た。

 ヨン自身は、旅芸人など左程興味を覚えるものでもないが、ウンスは飛び上がって喜ぶだろう。きっと知ったら見たがるはずだ。上手く休暇がとれたら誘ってみようと、続く部下達の話を素知らぬ顔で聞いていた。

 

 

 そうして昨日、夕食後にウンスを誘った結果はヨンの予想通りだった。 

 

 ウンスは近衛隊所属の医師として近衛隊の宿舎で暮らしている。もちろん部屋はヨンと一緒で普段から一緒にはいるものの、二人でどこかへ出かける事がそうあるわけではない。

 だが、天界ではデートというものをするのだとウンスがヨンに教えてからというもの、ヨンがその時間を設けるために努力してくれていることはウンスもよく知っている。だから不満なんてある訳がないのだが、やはりデートに誘われると嬉しいものである。買い物には何度か行ったが、芸人を見に行くのは初めてなのだから尚更だ。

 

「旅芸人?!連れて行ってくれるの?!」

「ええ、息抜きにいかがです?」

 

 ウンスは大きく開いた口元に、自らの両手を持っていきヨンを見つめた。そのままコクコクと頷くと自然と目線は上目使いになる。大きな目が輝きながら笑みの形を取っており、隠しきれてない口元からも「嬉しい」という気持ちが前面に出ていて。

 

 ————可愛い。

 

 思わずヨンはウンスの頬に手を伸ばしかけた。だが、ウンスが「嬉しい!」と言って自分から抱きついてきて、それはそれでもちろん大歓迎なのだが、自分がしようと思っていた事とは少し違って残念に思ってしまう。

 

 そんな自分に呆れはするが、正直嫌いではない。ウンスと出会い、自分にもこのような面があったのかと思うことが多々ある。いつもウンスを目で追っていたり、つい触れたくなったり…。これはあまり気づきたくはなかったが、結構嫉妬深いということも最近自覚した。

 情けないと思うが、それでも。ウンスがそれを見てくすぐったそうに、嬉しそうにしているためなのか、そんな自分も悪くないと思えてくるから不思議だった。

 

 胸の中のウンスを優しく抱きしめながら話す。

 

「どうやら、歌い手が話題になっておるようです」

「歌い手?」

「ええ、歌の旋律が不思議だと部下が言っておりました」

「へぇ、すごく楽しみ!そうと決まったら今日は早く寝なくちゃ!」

 

 まさに顔を近づけようとしていたところに、そんな言葉を言われて一瞬理解に遅れる。

 

「…は?」

「だって、それなら朝から市に行きたいの。そろそろ石鹸の材料も買っておきたいし。寝不足は美容の敵よ!」

 

 そう言って、ぐいぐいと布団のところへ引っ張られ「おやすみなさい」と中に潜り込み目を瞑ってしまった。

 休暇の前日だというのに、こんなに早く寝られてしまっては…。そう思うが、一度寝ると言い出したウンスにあまりしつこくすると本気の蹴りが入ってくることは身をもって知っている。

 

 出かける話は明日の朝にすればよかったと、後悔してももう遅い。ため息をつくと、仕方なくウンスの隣に寝転んだ。

 

 

 

 ウンスはちらりと薄目を開いてヨンを伺った。ヨンは布団に寝転び、どうやら今夜は大人しくしてくれるようでほっと一安心する。

 

 ウンスとてもちろん嫌な訳ではない。

 むしろ彼の腕に抱かれて眠るのは大変安心できるのだが、なんせ体力の差がありすぎるのだ。毎夜の様に求められるし、特に剣を交えるような事が起こった日にはウンスが止めても聞き入れてくれない。疲れているだろうにと思うが、ヨン曰く「戦いの後は血がたぎり身体が熱く…愛しい女人を前に止められる男等おりませぬ」だそうだ。そうなるともう、ウンスが泣いても懇願しても止めてはくれない。

 

 そんな日の翌日はこれでもかという程にヨンが身体を心配してくる。だったら手加減してくれればいいのに…とも思うが、それを言ったところで「そのように誘惑されては手加減等できませぬ」と返ってくるだけだ。全くもって言葉の通じない男だとウンスは思う。が、どうやらそれは相手もそう思っているらしい。「あなたが気づいておられぬだけです」だなんて一体何のことなのか。

 もちろんウンスに手術のあった日や前日は、流石にヨンも多少手加減してくれている…らしい。

 

 とはいえ普段は、身体が疲れていようとも自分のする事は薬の研究がメインだし、昼から行動しても特に問題はない。

 

 しかし、市場に行くとなると話は別だ。そんな所に寝不足や疲弊した身体で行っては買うことすらまともに出来ない。旅芸人を見に行くというのなら尚更だった。

 

 大人しく寝に入ったヨンの様子をみると、そう考えていることをきっと分かってくれたのだろう。嬉しくなり、ヨンの胸板に顔を寄せる。ヨンの身体は何故か一瞬ぎこちなく固まったが気がしたが、すぐに逞しい腕が背中にまわされ肩を抱かれる。そのままぽんぽんとあやす様にされるのが心地よく、ウンスはゆっくりと眠りについた。

 

 

 

 ————まったくこのお方は。俺がどれほど抑えておるか、分かっておらぬ。

 

 誘惑しているとはまさにこういったウンスの言動だ。顔など寄せられては襲ってくれと言っているようなもので、耐えた己を褒めてやりたいと思う。ちょっとした腹いせに腕の中ですうすうと眠っているウンスの鼻を、軽く指で弾く。

 

 まだ眠りは訪れてくれそうにない。

 

 ウンスの寝顔を見つめておくのも悪くないが、あまりそうしているとついうっかり手が出そうになるので、ほどほどにして仕方なく目を瞑った。

 

 

 

続くかも?

 

 

 

 

さて旅芸人と何があるやら。というお話。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村