おはようございます(o´艸`)
「君歌」の更新です。
*先ほどは、記事の大幅修正につき一度取り下げとなってしまい大変申し訳ありませんでした。遅くなりましたが、やっと正式版UPです。
さて、歌い手の元に来た脱走ウンス。相手はまさかの…?
読む前の豆知識ヾ(●′ω`)ノご存知の方は飛ばしてください。
韓国では親しい相手(年上女性)への呼び名として「お姉さん」と呼ぶことも。
「お姉さん」の言い方は呼ぶ側の性別で違います。
男性は「ヌナ」・女性は「オンニ」
となっています♬さて、これを踏まえた上でお進みくださいませ。
それではどうぞ〜♬
5
ウンスは机の上にある菓子を一つ口に入れて、目の前の男にも差し出した。訝しげに見る男はなかなか手をつけようとしないが、警戒する気持ちも分からなくはない。
自分だって、いきなり現代の曲を歌う女が来たら警戒するに違いない。それにしても、ジロジロと見すぎではないだろうか。
「食べない?美味しいわよ、これ」
指で示すが、男が動く気配はない。食べないのであればと、自らの口に放り込む。うん、やっぱり美味しい。
ここは件の天幕からほど近くにある茶屋だ。あのまま話をするのも憚れ、どこかで話をしないかとウンスから誘い出した。店の中であればヨンに見つかるまでの時間も少しは稼げるのではと考えたのもある。
「ウンスさん…でしたっけ?」
こちらを探るようなその様子に、ヨンが心配していたような、つまりこちらに危害を与えるために近づいた…などと言うことはなさそうだと分かった。ほらねと思いつつも、やはりほんの少し安心する。
ウンスは改めて目の前の男をまじまじと観察した。歳はおそらく自分より少し若いくらいと言ったところだろうか。男性に言うのもなんだが、綺麗な顔をしていて、男性らしいヨンとはまた違った中性的な色気がある。
「はー、これは女性に人気が出るのも分かるわね」
「は?」
「え?あらやだ、私声に出してた?」
ヘらっと笑ったウンスに毒気が抜かれたのか、少しだけ「ええ」と笑った。
「あなた名前は?」
「イ・ジュウォン」
どこかで聞いた名前だが、目の前の男の顔に見覚えはないのだから気のせいだろう。
「率直に聞くわ。あなたもしかして…韓国から来たんじゃない?」
未来から来たの?などと言えば違ったとき頭がおかしいのかと思われるだろうが「韓国」と言うワードであれば、遠い異国の地だ等なんとでも誤魔化せる。だが、ウンスには確信もあった。さっきのウンスの歌を聞いた時の驚いた表情は、絶対に本物だった。
溶けた緊張が戻って来たかのように、表情を強張らせたジュウォンにウンスは慌てて言う。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ!何もしないわ!あなたの歌を偶然聞いて、もしかしてって思っただけよ」
「まさか…あなたも?」
「やっぱり!そうなのね!」
きゃあ!とウンスは思わずジュウォンの手をとってブンブンと上下に振ってしまう。
「ウ、ウンスさん?!」
「なんか嬉しくって!いつ来たの?どこから?どうやって?って、ごめんなさいね矢継ぎ早に」
勢いに押され唖然とした表情をしたジュウォンに、はっとなってウンスはゴホンと咳払いをした。
「ん、んんっ。改めて、私はユ・ウンスよ。向こうでは医者をしていたの」
「ユ・ウンス?いや、まさかな…」
ジュウォンはいや、と否定するように呟いてウンスをじっと見つめた。まるで観察されているような視線にウンスは居心地が悪くなる。
「何?」
「あの…まさかとは思いますが、もしかして昔…大邱広域市に住んでたり…」
ウンスは目を丸くしてジュウォンを見た。
「そうだけど…なんで知ってるの?」
「大邱広域市の…割と外れで、農業を…」
「そ、そうよ!え!?知り合い!?」
「やっぱりそうだ!まさかと思ったけど…」
「ちょっと待って!今思い出すから!」
相手が覚えているのに、自分が忘れているなど失礼ではないか。自分が大邱広域市、つまり実家に居たのは大学に入るまでの間だ。高校…中学…小学校と記憶を遡ってみるが、どうしても正解に辿り着けない。
「待って、本当に分からない…」
「分からなくても仕方ないかも…ウンス姉ちゃん(オンニ)」
嬉しそうにふわりと笑ったジュウォンが、ウンス姉ちゃんと呼んで少しだけにやっと笑う。
—————ウンス姉ちゃん?
そう言って、自分に懐いてきた隣家の女の子がいた。
—————確かその子の名前って…
「ジュウォン…ちゃん?」
「正解」
「ええ!?」
いや待て、ジュウォンちゃんは可愛い女の子だったはずだ。自分をオンニと呼んでいたではないか。男ならヌナと呼ぶはずだ。
それに、ジュウォンちゃんは生まれた時から知っていて、10歳は離れていたはずなのだから、目前の男の推定年齢と合わない。ウンスが大学に上がるのと同時期に、当時9歳だったジュウォンちゃんは引っ越してしまって、それから会っていない。
「え…待って?だって、あなた男よね?それに歳も…」
「呼び方は、小さかった俺のことを女と間違えたウンス姉ちゃんがオンニと呼ばせたんだよ。その時は、ウンス姉ちゃんもまだ幼かったからね。それが定着しちゃってそのままだったんだけど…え?まさか、ずっと女だと思ってたの?」
そのまさかだ。だって本当に可愛かったのだ。あれは間違えても仕方ないと思うくらいには。
「で、でも歳は?!」
「それなんだけど…ウンス姉ちゃんはいつここに?高麗に来てどのくらい?」
「2012年に太陽黒点が爆発した日よ。もう2年経つわ」
過去に行っていた分、高麗に来た時期とはズレがあるが、それは割愛しても問題ないだろう。
そう言うとやっぱりねとジュウォンが笑う。
「俺も向こうで言うと同じ日に高麗に飛ばされた。でも、こっちに来てもう7年経つ。当時は23歳で大学生。どうやって高麗に来たかは、酒に酔っ払っていてあまり記憶がないんだけど…」
「時間軸にズレがあったってことね…」
10歳の差が5歳に縮まったということになる。
確かに一度現代に戻ったあの後は、もっと昔に飛ばされた。つまり飛ぶ先は無限にあるのだと、改めてヨンがいる時間軸に戻って来れたことが、どれほどの奇跡だったのかを実感する。
「それにしても、よく私って分かったわね」
「それは…だってそりゃ…」
ジュウォンは視線を逸らして何かを小声でゴニョゴニョと言っていたが、顔をこちらに戻すとなんでもないと誤魔化すように笑った。
「いや、だって最後に会った時ウンス姉ちゃんは19歳だったろ?そんなに変わってないじゃないか。最初は分からなかったけど…流石に名前を聞いたらあれ?ってなるよ」
「本当!?変わってない?!ふふ。よく言われてたのよー、変わってないって!」
嬉しそうに笑うウンスの笑顔は昔のままだ。ジュウォンはウンスの笑顔を、目を細めて懐かしく見つめた。ウンスから見たら自分は9歳から30歳になったのだ。その変化は伊達じゃないだろう。分からなくても仕方ない。
だが、自分がウンス覚えていたのは理由がある。
「ジュウォンちゃん、おいでおいで」
優しく綺麗なお姉さんが生まれた時から近くにいたのだ。
子供時代の淡い思いではあるが、それは紛れもなく。
—————初恋だったのだから
続
本日のポイント;自称19歳から変わらないウンス
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