こんばんはヾ(●′ω`)ノ 君歌8-2の更新です。

書きたい話が色々あって、連載からつい浮気しそうになります…笑

 

 

 

 

 

8-2

 

 

 長居となった茶屋からの帰りは、すっかり日も傾いていた。夕焼けが街を染め、ピュルルと遠くで鳥が鳴いている。

 人混みを避けた道は、夕方特有の静けさが辺りを包んでいる。

 

 カポカポとゆっくり歩みを進める馬の上、ウンスはヨンの前に座っていた。

 春になり随分と暖かくなったが、夕方になるとまだまだ肌寒い。冷たい風にふるりと身を慄わせると、たくましい腕が後ろからウンスをぐいと力強く引き寄せた。

 ポスリと預けた背は暖かく、顔に当たる風は冷んやりとしていて、その気持ち良さにウンスはほうと息を吐いた。

 寒いと感じたことを察知するほどに、自分に神経を向けているのだと思うと、なんとも面映く、でも嬉しくてつい頬が緩んでしまう。

 少しだけ甘えるように、自分を囲む腕にスリと顔を寄せる。

 

「ねぇテジャン、王様には何て話したの?」

「旅芸人が天界人かもしれませぬと。医仙が会いたいと言うゆえ、護衛をして良いかを話しました」

「じゃぁ、会わせてくれるつもりだったの?」

「だから待っていろと言うたでしょう。王様に許可をいただき、イムジャを連れて行くつもりでした。それなのに、あなたときたら…」

「だって、それは…」

「それは、なんです?」

「テジャンが…会わせてくれないと思ったのよ。心配してくれてるのは分かってるのよ。でも、今回は…。天界に帰りたいかって、私に聞いたわよね?」

 

 そう言うと、ヨンの腕が少しだけ強張ったのが分かった。

 

「……聞こえて?」

 

 気まずそうに呟くヨンの胸に、預けた頭をコツン軽くぶつける。

 

「ジュウォンに会おうとした理由、故郷が恋しいからだって思ったんでしょう?会ったら、その気持ちが強くなるかもって、そう思ったんじゃない?」

 

 ややあって、ため息と共にチェ・ヨンがポツリと吐き出しだ。

 

「正直…天界の者同士、惹かれ合うものがあるのではと—————」

 

 やはり、ウンスの思った通りにヨンは不安を感じていたのだ。それなのに—————

 

「それでも、会わせてくれようとしたの?」

「イムジャが望んでおるのなら」

 

 自分の気持ちを分かっていないと感じていた怒りより、ヨンの気持ちにぎゅうと切なくなった。

 

 —————ああ、この人はなんて…

 

 自分が会いたいと言ったから、離れて行くかもしれないと不安の中でさえも、自分の希望を何より大事に考えてくれていた。

 

 —————分かってなかったのは、私も同じだわ。

 

 会わせてくれない…だなんて。

 

 —————この人の行動は全部、私の為を思ってのことだって…分かっていたはずなのに。

 

 高麗に来たことに後悔なんてしていない。だから不安に思うことなんてないのだと、どうしたら伝わるだろう。

 

「天界を恋しい気持ちはあるわ。だって故郷だもの」

 

 

 

 

 ウンスの言葉に、ヨンの胸がズキリと痛んだ。

 故郷を恋しく思うのは仕方のないことだと分かっている。その故郷をウンスから奪ったのは自分だ。

 

 なんと言って良いものか分からずにいると、ウンスがそっと自分の腕を掴み「ね、休憩しましょ」と木を指差した。笑うウンスの瞳が、何処か切なく揺れているようで、胃の底がザワリとする。ウンスを馬から降ろしてやらねばと言うのに、体が強張ってしまう。

 

 自分が不安に思っていたことをウンスは分かっていた。

 

  「帰りたい」

 

 その言葉をもしウンスが言ったなら、ウンスはヨンと離れても平気なのだということだ。そう言われたら———。先ほどジュウォンという男の前でのウンスからは、そんな様子は見られず、少なからず安心していた。それでもやはり…と不安がヨンを襲う。

 

 ウンスの口からそう言われたら。治ったはずの右手から力がすうと抜けて行く感覚がして、ぐっと握りしめる。

 

 —————情けない…

 

 聞きたくないと叫ぶ心に蓋をし、重い溜息を吐いた。言葉を聞く覚悟は出来ても、手放す覚悟などできるはずがなかった。

 

 

 

 ウンスが座った木の根元に自分も腰を下ろすと、ぽすっとウンスが胸に頭を寄せた。ほぼ無意識でウンスの肩に腕を回し力を入れる。

 

「ねぇ、テジ…」

「イムジャ」

 

 同時に声が重なってしまい、ウンスが少し目を丸くしたあと「かぶっちゃった」と笑った。

 

「ふふ、お先にどうぞ?」

 

 そう言われて、ヨンはならばと先を続ける。自分の不安な気持ちは置いといて、一つだけ言いたいことがあったのだ。

 

「ならば…イムジャ。俺は何があろうと、イムジャの意見を無下になどせぬと約束します。ただし、それは安全が分かっておればです。ゆえに、俺に黙って出て行くなど…今回は何もなかったからよかったものの…二度となさらぬよう。必ず、イムジャの望みは俺が…叶えます。もしも、イムジャが天界にというなれば…」

 

 叶えますという言葉、それと共にもしそうなったらと何度も考え決心した言葉が、喉に鉛でも入っているように詰まり、どうしても出てこない。

 ぐっと奥歯を噛み締め、知らぬうちに握りしめた手に力が入っていた。

 

「ねぇ、テジャン」

 

 その手に、そっとウンスの手が添えられる。暖かく、柔らかな手に強張りが解けていく。

 

「ありがとう。逃げたりしてごめんなさい。分かった。チェ・ヨンがそう約束してくれるなら、もう逃げたりしないわ」

 

 解けた手をくるりと返して手のひらを合わせると、ウンスがキュッと指を絡めた。

 

「私が天界に帰りたいって、そう言ったら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

今回のポイント:

ウンスが寄りかかってくると、無意識に肩を引き寄せちゃうヨン。

 

 

8話は次でラスト♪いつも応援ありがとうございます!

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