1/1の日記。
2019→2020の年越しをディエンビエンフーのホテルにて過ごす。
ホテルのチェックアウトが12時なので、午前中はホテルでゆっくり過ごすこととする。
買っておいた保存食を朝食にするのも気分が乗らない。
霧のかかる街を散歩がてら朝食をとれるところを探すとしよう。
なんやかんやで結局フォーを食べる。順当にいけばフォーを食べるのはこれで最後になるんじゃないか。
6日間毎食のように世話になったが、さすがにもう飽きた。
しかるのち、バスターミナルに行ってハノイ行きのバスチケットを購入する。
ディエンビエンフー~ハノイ間の所要時間は約10時間。
夜便が多いが、21時30分発の便だけ57万ドンとやたら高い。
どういうことなのか尋ねると、この便はVIPバスだという。
他の便との差額は約25万ドン、日本円で1200円くらいである。
これは実に悩む。学生時代は何度も東京~名古屋を夜行バスで行き来したが、安い便はだいたい環境が悪く眠れたためしがない。
特に4列シートだと、隣近所の乗客のいびきやら何やらが気になって仕方がない。
毎回のようにケチるんじゃなかったと後悔していたわけで。その経験から、夜行バスのグレードはケチることなかれという教訓を得たわけで。
手持ちのドンを使い切りたいという気持ちもあって、大奮発することとした。
もう後には引けない。今夜、僕はVIPになるのだ。
その後ホテルに戻ってゴロゴロし、12時前にチェックアウト。
昨日も利用した食堂で昼食とする。
盛り放題で5万ドンだと思ってたくさん盛ったら、6万ドンと言われてしまった。
この辺りは食堂のおばちゃんの絶妙な匙加減である。
だが、僕が昨日も利用した外国人観光客だと気づいた別のおばちゃんがこっそり5万ドンに負けてくれた。感謝!
昼食の後、ディエンビエンフー市内の観光に出かける。
まずはド・カストリ司令部跡を見学。
ド・カストリとはディエンビエンフーの戦いにおけるフランス軍の総大将の名前。
屋根は、土嚢を積み上げた上にかまぼこ形のトタン板で覆われている。
司令部の中には広いスペースがあって、ここで会議とかをしていたものだと思われる。
ここで面白い出会いがあった。安島(やすじま)さんという初老の男性。
地球の歩き方を読んでいたので僕のほうから声をかけた。
普段は外国で日本人と絡むことのない僕にしては珍しい行動であると思う。
安島さんはカメラマンをされていて、僕と同じように色んな戦跡を回って旅をしているとのこと。
少し話して気が合うような感じがしたので、この日は安島さんと一緒に行動することにした。
大変ありがたいことに、この先の施設入場料はすべて安島さんが出してくれた。
続いて戦争博物館を見学。ホー=チ=ミンの胸像がお出迎えする。
豊富な写真資料と再現ジオラマがディエンビエンフーの戦いの過酷さを物語っている。
ヴェトミン(ヴェトナム独立同盟)のゲリラたちは、まだ舗装されていなかった山道を牛馬や自転車を使って物資を運んだのだ。
フランス軍は戦闘機を持たないヴェトミンの戦力を過小評価していたが、盆地であるディエンビエンフーはヴェトミンによって完全に包囲されることとなった。
フランス軍の補給物資や増援部隊は山々からの砲撃によってすべて撃墜されて孤立無援となり、なすすべもなく敗れ去ったのである。
僕はこの戦いが特に好きで、授業でも時間をかけて熱弁をふるうテーマである。
アジアの弱小植民地が欧米の帝国主義支配に終止符を打ったこと。独立を求めるヴェトナム人たちの執念。勝利のための並々ならぬ努力。
抜群のドラマ性があり、ついつい説明に力が入ってしまうのである。
山道を登ったであろう自転車も展示されていた。
これと同じことがやりたくて、僕もハノイからディエンビエンフーまでの山々を越えてきた。
ゲリラたちがどれほどの苦労と犠牲を払って勝利を勝ち取ったのかを、自らの体験をもって生徒たちに伝えるのだ。
そのために世界中を旅していることを話すと、安島さんも感心しておられた。
出口にはヴォー=グエン=ザップの胸像があった。
続いてA1の丘を見学する。
ディエンビエンフー市街にはいくつか丘があって、それぞれがフランス軍の拠点であった。
ヴェトミンはその一つ一つを粘り強く攻略していったわけで。
安島さんはもう60歳だというのに丘をグングン登っていく。
20年以上色んな戦跡を回っていて、ペリリューやガダルカナルも訪れたという。
壕の中も見学できるようになっている。
フランス軍が立てこもる司令所を攻略するため、ヴェトミンははるか遠くからトンネルを掘り進めていった。
そして司令所の近くまで到達し、そこに1トン爆薬を設置して爆破させたのである。
その爆撃でできたクレーターがこれ。
上にいたフランス軍は木っ端みじんだったに違いない。
一通り史跡をめぐり終え、カフェで休憩する。
濃い目ヴェトナムコーヒーの底には練乳が入っていて、かき混ぜるといい具合になる。
このカフェで安島さんと色んなことを話した。
仕事のこと、教育のこと、生き方のこと。
安島さんは色んな学校の平和学習や修学旅行の事前研修などで講演をされている。
僕と近い教育観、学校観を持っておられるようで、話が弾む弾む。
若い人はたくさん旅をして、色んな生き方や考え方があることを知ってほしいとおっしゃっていた。
まったくもって同感である。狭い世界で井の中の蛙になっていてはいけないと思う。
あれよあれよで夕食もごちそうになる。生春巻きなどを腹いっぱい食べた。
名残惜しいが、バスの時間が迫ってきたのでお別れすることとした。
司令部跡で何となく声をかけたことが思わぬ良い出会いにつながった。
また会いましょう、安島さん。
そしていよいよ、VIPとなる瞬間がきた。
結果としては、VIPにして大正解だった。
ほぼ個室。カプセルホテルレベルの快適さである。
脚を伸ばして横になれるし、カーテンを閉めればプライバシーもばっちり確保できる。
57万ドンの価値は十分にあったと思われる。
トイレ休憩で一度目覚めたが、朝ハノイに着くまで快適な時間だった。
走行距離:11㎞
走行時間:1時間22分
総走行距離:21466㎞