あれから、ユノさんからは、連絡はない。
あのときのキスは何だったのか、僕から聞く勇気もない。
そのまま仕事でも顔を合わせることもなく何日か過ぎた。
だが、今日は事務所のハロウィンパーティー。
事務所所属のタレントを仮装させ、対外的にも宣伝を行う日。
僕が特に希望もださなかったのがいけないのだが、渡された衣装とメイクは不思議の国のアリス。
冗談かと思ったが、かつらを被され、カラーコンタクトまでつけ、濃いメイクをされると、鏡映ったのは、まさに少女だった。
「やっぱり、似合うと思った。」
スタッフさん達は喜んでいるけど、さすがにこの格好は嫌だった。
「これで、でてかないといけないのですか?」
「あら、あなたは、まだメインキャラだからいいけど、兎の役の人もいるのよ。
ましだと思いなさい。」
新人の僕に、抗議する資格はない。
「チャンミン、綺麗になったんだって?」
マネージャーが笑いながら近寄る。
「おー!チャンミンじゃないみたい。」
「どうして、女装って教えてくれなかったのですか?」
「教えたら、こないでしょ。タレントに休まれたら、怒られちゃうわ。」
「怒るを通り越してあきれてます。僕だけ女装なんて、何の罰ゲームですか?」
「あら、あなただけじゃないわよ。ソジュ君も女装よ。」
その名前にちくりと心が痛んだ。
「ソジュも可愛かったわ。彼は天性の魔性タイプね。男も女も狂わせそうな。」
「そんなに、、、可愛い?」
「あら、気になるの?後でみてきたら?
今回、ソジュが白雪姫で、ユノが王子なんだけど、お似合いのカップルすぎて、びっくり。」
「ユノさんが、、、王子?」
「まあ、毎年、彼は王子なんだけどね。今年違うのは、相手役が女じゃなくて、男ってとこかな。
この行事のあと、彼のファンサイトからの抗議の対応に追われるし、彼の相手になる女性のイメージも悪くされちゃうから、今年は、男にしたってわけ。」
「どうして、相手がソジュさんなんですか?」
「彼は、モデルにしては小柄だし、華奢でしょう。女の子に間違えられるルックスも持ってるから、ソジュ以外に考えられなかったわ。」
「どうして、、、僕は、、、アリス、、、。」
小声で言った独り言が、地獄耳のマネージャーに聞かれる。
「あら、あっちがよかったの?でも、あなたがハイヒールはいたら、ユノよりでかくなるでしょ?」
「そ、そういう意味じゃなくて、、、その、、、僕も王子でよかったのに、、、っていう意味で。」
「ソジュがユノを指名したのよ。女装やるかわりに、王子は自分に選ばせてくれって。」
「ソジュさんが?」
「ええ。あの子、誰にでもなついているけど、ユノは特別みたいね。
ユノも弟のように可愛がってるし。」
あれから、連絡できなかった理由は、ソジュさんなのかなと思うと、二人に会うのが気が引ける。
重い気持ちのまま、会場に向かうと
「チャンミン?」
会いたくない二人が目の前にいた。