優勝は、まさかの僕達、不思議の国のアリスペア。
ハワイ旅行のペアチケットをいただいた。
「ハワイね、、、。あなたにあげるわ。」
「そんな、いただけません。優勝は先輩のおかげですから。」
「私、飛行機苦手なの。なるべく海外の仕事は引き受けないのに、プライベートで行くわけないわ。」
「でも、それでは、僕ばかり得をしてしまって、申し訳ないです。」
「わかった。今日、私に酒おごって。」
「え?それだけ?」
「ええ。でも、海外チケット譲ったんだから、お洒落なとこで飲みたい。
あんたみたいなイケメン連れて、行きたいとこあるのよ。」
連れてかれた場所は、ホテル最上階のバー。
夜景が綺麗に見える。
初めは、承諾したものの、こんな場所にきて、この先輩と噂にでもなったら?
僕は男だからいいけど、先輩は平気なのかな?
「何、気にしてるのよ。早く、ここ、ここ。」
僕の手をひき、カウンターに座った。
夜景が見える窓側も空いているのに。
「こんばんは。今日はお一人じゃないんですね。」
「そうよ。私にも、言い寄る男の一人や二人。」
冗談で言ってるのか、バーテンダーの方も笑ってる。
「この人ね、私がもてないと思ってるみたいだから、見せつけたかったの。」
うさぎのときとは、想像がつかないほど、女性らしいワンピースを着て、ばっちりメイクをしたのは、僕でなく、このバーテンダーがお気に入りだからのようだ。
「何飲む?」
「とりあえず、ビールで。」
「つまんない男。この人のカクテル最高なんだから、カクテルにしなさいよ。」
「無理なこと言ったら可哀想ですよ。お酒くらいお好きなものにしてあげてください。」
そういうと、バーテンダーは、細いグラスにビールを注ぐ。
細かな泡さえも、上品に見える。
「じゃあ、二人の未来に乾杯。」
先輩は、いつもの、と、バーテンダーに入れてもらった、青い色のカクテル。
「私ね、ここ大好きなの。」
「景色綺麗ですよね。」
「一杯が驚くほど高くて、酔えるまで飲めないけどね。」
「どなたに教えてもらったのですか?」
「昔の恋人。結婚しちゃって、子供も産んじゃったけどね。」
バイセクシャルと公言していたのは、本当なのか。
「ねえ、ねえ、黙られたら、その先言えなくなるでしょう。何で別れたのかって、聞いてよ。」
「す、すみません。どうして、別れたのですか?」
「彼女となら、この仕事やめてもいいかなって思ってたことがあったの。でも、そう思ったことが、彼女には辛かったって。自分のために夢をあきらめる人にはなってほしくないと、すぐに、私のとこから、去っていったわ。」
「潔い方なんですね。」
「そう。私よりずっと潔くて、スパッスパッて物事決めちゃうの。」
「女性の方が、そうなのかもしれません。」
「チャンミンは、ユノのことどう思ってるの?」
「一方的な片想いです。」
「実らせようとは思ってない?」
「自分の気持ちだけでは、どうにもなりませんから。」
「女々しいな。そうやって、人のせいにするとこ、だめよ。」
「でも、、、。」
「まだ、当たって砕けてもいないんでしょ?砕け散った方が、もっとすっぱり、割りきれるわよ。私みたいに。」
「はあ、、、。」
「さあ、砕けちりなさい。」
と、先輩が指差した方向に、ユノさんがいた。
「え?どうして?」
「私が呼んだのよ。」
ユノさんも僕がいたことに、少し驚いているようだった。
「あの、、、話って。」
「私じゃなくて、この子があるみたい。ここは、目につくから、これあげる。」
ホテルのカードキーを渡される。
「え?」「は?」
「チャンミンはまだ駆け出しだけど、ユノは結構、面が割れてるのだから、ここで飲むのもいいけど、部屋で飲む方が本音が言えるでしょ?」
「本音って、、、。」
「今日、チャンミンが見ているときは、目をそらしてたくせに、そうじゃないとき、ずっと見つめていたわよね。
男って、本当にわかりやすいわ。」
僕は驚いてユノさんを見つめる。
でも、やっぱり、ユノさんは僕を見ようとしない。
「ほら、受け取りなさい。」
先輩は、ユノさんの手にカードキーを握らせた。
「さあ、早く行って。私は一人で飲みたいの。」
「お会計は、、、。」
「次にするわ。もっと浴びるほど飲んだ時ね。」
「ミナ先輩らしいな。」
「え?知り合い?」
「ああ。いろいろ教えてもらってる。」
「体の関係以外はね。本当、そこは残念だわ。」
「ミナ先輩こそ、俺を男にみてくれないじゃないですか。」
「私の可愛い弟だもの。ほら、女々しい男ども、早く話しておいで。報告はするのよ。」
「わかりました。」
ユノさんは、僕の手首を掴むと、ずんずんと歩いていく。
焦っているのか、歩く速度も早いし、掴まれた腕が痛い。
エレベーターに乗り、やっと二人きりになったところで
「あの、、、痛いです。」
そう話すと、「ごめん。」と、手首を離された。
離されて、やっと痛みから解放されたのに、痛いと言ったことを後悔した。
ユノさんが触れた場所が熱い。
ずっと、触れられたい。
そう思ったら、僕の方から、ユノさんの手を掴む。
ユノさんは、始めこそ驚いた顔をしたものの、僕の手を握り直し、指と指を絡めた。