珈琲の香りと紫烟の中で・・・・・
酔いどれ天使  1948年(昭和23年)



 若きヤクザで町の顔役・松永(三船敏郎)は、手に弾を撃ちこまれ医者に駆け込む。医者の真田(志村喬)は咳き込む松永を診察し結核だという。結核におかされた松永は真田の言う事を聞かず酒をあおり、日毎に衰弱していく。そんな時、松永の兄貴分で元顔役の岡田(山本礼三郎)が刑務所から出所してくる・・・。


 黒澤明監督作品としては第七作目にあたる本作は、黒澤作品に初めて三船敏郎が出演した記念すべき作品です。黒澤明監督と三船敏郎の黄金コンビは、本作から『赤ひげ』(1965年)まで(『生きる』(1952年)のみ出演していない)17年間に16作品も作られました。


 『酔いどれ天使』の主役は、タイトル通り「酔いどれの医者」に扮した志村喬です。しかし黒澤監督は次のように語っている。

 「あの志村さんの医者は若くてうまかったのだが、三船の松永って奴がグングンのして来ちゃうのを、ぼくはどうしても押さえきれなかったんだ。それは気がついたけれど、三船にはやりたいようにやらせました。この若いよさを伸ばしてやりたいという気持ちと、だがここで押さえなけりゃ写真が最初のぼくの意図からひん曲がっちゃうぞという気持ちと、ぼくの中に気持ちが二つ出来てしまってどうにももうしょうがなかった。いや、押さえがきかなかったなんて言うが、実は、このよさを殺しちゃ惜しいという気持ちもあったんだ。もちろん、最初は題名通り医者が主人公だったんだがねぇ。」

 黒澤監督の中で、本作の主人公はあくまでも医者の志村喬だったけど、三船敏郎のパワーに圧倒されてしまい画面をさらわれた感じです。


 完璧主義者の黒澤監督を黙らせるほどの三船の迫力。以後の作品で次々に傑作が作られたのも、この作品で二人が出会っていなければ絶対に作られる事はなかったと思います。



珈琲の香りと紫烟の中で・・・・・

三船敏郎


珈琲の香りと紫烟の中で・・・・・
志村 喬          三船敏郎


珈琲の香りと紫烟の中で・・・・・
中北千枝子


珈琲の香りと紫烟の中で・・・・・
                    久我美子


珈琲の香りと紫烟の中で・・・・・
山本礼三郎          木暮実千代


珈琲の香りと紫烟の中で・・・・・
千石規子