「何だぁ~おとなしいじゃない」
アキはそぅっと、ルシフェルというシロクマみたいな犬に、
手を伸ばす。
「おい、やめろ」
あわててナイトが、その手を振り払う。
「えっ?なんで?」
身体は大きいけれど、とてもきれいな犬じゃないの…
アキは、恨みがましい目を、ナイトに向ける。
だがナイトは、スッと杖をルシフェルに向ける。
信じられない勢いで、ルシフェルはその杖に飛びつく。
「あっ」
ガブッと、その杖を噛み砕こうと、噛みつく。
「えっ?」
バリバリ…と、嫌な音がする。
ナイトがブンと、杖を大きく振るけれど…
ルシフェルはくわえたまま、放そうとはしない。
「ルシフェル!ストップ!」
メアリーは犬に向かって、大きく叫ぶ。
するとウーとうなっていたルシフェルも、ようやく口を離すと、
その場に止まる。
ナイトはあわてて、自分の杖を引っ込めると、
「ほら」とアキの目の前に突き出す。
「えっ?」
ルシフェルのあまりの変わり様に、アキとカガリは恐れをなして、
おそるおそるのぞき込む。
無言で突き出された杖には、しっかりとルシフェルの歯形が
刻まれている。
それだけではない…
かなりの強さで、噛み砕かれたのか、ポツポツと歯の形に穴が
うがたれている。
「うわっ」
「これが…アイツだ」
驚いて後ずさりをしている二人に、ナイトは冷静な表情で、
そう告げた。