当のルシフェルは、さっきのことなどなかったかのように、
おとなしくじぃっとしている。
見た目はとても穏やかで、賢そうな顔をしている。
そして、ツヤツヤとした美しい毛並みの、とてもきれいな犬だ。
「驚いただろ?」
メアリーは、ルシフェルの身体にそっと触れる。
「この子は、私にしかなつかないんだ。
だから、ヘタに手を出すと…嚙み切られるわよ」
にこやかに、四人に向かって、そう告げる。
「えっ」
アキはあわてて、自分の手を後ろに回す。
そんな彼女の様子を、メアリーはニコニコしながら見ている。
ルシフェルは、とても澄んだ賢そうな瞳を、まっすぐに
アキに向ける。
(さっきのあれは…きっと、杖で襲われると思ったんだわ)
アキは、そう考える。
だが、メアリーは全く気にする様子もない。
とても落ち着いた様子で、ルシフェルを優しくなでている。
「たわむれは、よしなさい!
お客さんが、驚いているじゃあないか」
いきなりリンとした声が、どこかからか聞こえる。
声の主は、誰だ、と辺りを見回すと、向かいの棟の方で、
誰かがこちらを見ている。
「えっ?」
「だれ?」
アキとカガリが、声をもらす。
「あっ」
あきらかにメアリーが、落ち着かない様子で、ソワソワと
し始めた。