暗闇 | Commentarii de AKB Ameba版

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 しっかしなあ。

 新しく出来たグループのいっちゃん最初の曲のタイトルが「暗闇」とは。

 最近あれだ、ほらなんとか坂のちょっと拗ねたタイトルの曲のウケがいいもんだから、

 大将いい気になったんじゃないの、と思ったわけよ最初は。

 また説教をするなのかヤツは。それとも大人への文句を書き連ねて厨二に買って貰うつもりなのか。

 

 そんなことを考えながらふと見た公式ページのMVの女の子の表情が妙に心に引っ掛かった。。

 暗い画面の中、不安そうに見上げているその顔。どこかで会ったことがあるようでもあった。

   太陽は水平線の彼方を目指して
   Rを描き ただ落下する夕暮れに
   何かをやり残してるような悔いはないのか?
   僕はまだ帰りたくない

 この景色は確かに見たことがある。

 後悔と疲労、あきらめともどかしさを抱きながらたどる家路。

 太陽は沈もうとしている。

 そう、「夕陽を見ているか」だ。

 

 正直言えばあの時だって、楽しいことは決してつらいことに勝ち越してなんかいなかった。

 でも傍らにはあっちゃんたちがいたし、アキバの夜空には見えない星がきらめいていた。

 

 10年ほど前のことだ。

 時が経ち、場所が変わった。

 

 画面にはまだ垢抜けない女の子たち。コスチュームもどこか身体にフィットしていない。

 窓の外には、海と、島と、夜。

 曲調は明るいのに、歌詞は胸を締め付ける。

   あの空とこの海がほら 分かれているように

   交わらないものがあるってことさ

 あっちゃんたちの頃より、立ち位置が少しだけ「絶望がわ」に寄っているのは時代のせいなのか。

 ああ、そうだ。「暗闇」は文字通り心の闇のことだ。

 

 --

 

 なぁちゃんこと岡田奈々がそこに呼ばれたことは知っていた。

 真面目で責任感のある彼女だから、きっと一生懸命やっているんだろう。

 

 最初の頃、僕の目は西野やさっほーや茂木ちゃんに奪われていたから、シアターで綺麗な衣装に包まれて笑いさざめくメンバーの中で、ちょっと居心地悪そうにしている彼女を見て、僕もなんだかリラックス出来なかった。

 

 彼女に最後に会ったのは、奇しくも彼女の生誕祭、西野が卒業を発表した夜。

 

 「底抜けに明るい西野と求道的に真摯な岡田。

 決してステージでは手を抜かない2人とチーム4の将来を楽しみにしていました。」と、僕はその夜のことを書いた。

 西野はいなくなり、チーム4は5度目の解体を迎えることになった。

 

 笑うことが苦手。

 食べるのが好きでない。

 いつかのMCで彼女はそう語っていた。

 後にカミングアウトした「摂食障害」の既往。

 

 摂食障害、特に拒食症とは、要するに現在の自分を否定する病だ。

 どうしても自分に価値が見いだせない少女たちが迷い込む袋小路。

 そこでは減った1グラムの脂肪の分だけ自分を赦すことが出来る。AKBに居場所がなかったわけじゃないのに、それどころかホープの一人として数えられていたのに、岡田(奈)は自分を追い込まないではいられなかった。生来の生真面目さと責任感、それが裏目に出た。

 

 たくさんのことがあって、その後回復したと聞いた。

 新たなポジションが与えられ、彼女はきっとそこでそれにまっすぐ取り組んでいるんだろう。

 

 CDを買ったのは本当に久しぶりだった。

   夜よ 僕を詩人にするな

   綺麗事では終わりたくない
   生きることに傷つきうろたえて

   無様でいたい

 たくさんの少女の声の中から、彼女の声を聞き取ろうとしたけれど、できなかった。

 でも、この中で岡田奈々はしっかりと生きている。できれば彼女たちが傷つく姿は見たくない。

 でも、それを見るのは、彼女たちからたくさんのギフトを貰ってきた者のつとめなんだろう。

 

 でも、おっさん、頼むぜホントに。