※不定期更新&未完成※ <自作小説> 雨音 | マヌーのあれやこれ 〜seasonⅡ〜

マヌーのあれやこれ 〜seasonⅡ〜

H25 6/21〜
‘マヌーのあれやこれ’ は
‘マヌーのあれやこれseasonⅡ’

と、改名しました。

H28 9/3~
投稿者の名前を「マッケイ」

と、改名しました。

どこから読んでも楽しめるブログを目指してます!


『初回→雨音part,1
『前回→雨音part,3

「そろそろ行かないと」

ため息混じりに彼女は言う。
僕は思った。
まだ一緒にいたい。

「何かこの後あるの?」

帰り支度をしている彼女に問う。
自分がどのような表情で言葉を発したのか、出来れば想像したくはない。

きっと情けない顔だったに違いない。

「何にも」

少し間を開けて、笑顔でも、真顔でもない、自然な表情で彼女は答えた。
先ほどまで帰り支度をしていた手を止め、彼女は再び僕の目を見つめ直す。

この一言にどういった意味があるのだろうか。

予定はないが、僕といるのは苦痛だと感じている。
はたまた、何もないからまだ一緒にいてもいい。

日本語特有のボカした回答に、頭を抱えてしまう。

「あなたは?」

僕がずっと黙っていたからか、彼女から問いを投げられてしまった。

「なにも、ないよ」

途中で言葉がつまづく。

「じゃ、もうちょっと一緒にいよ」

「そうだね」

情けない。
何もかも彼女にリードされっぱなしだ。
それでも彼女は何だか嬉しそうな表情を浮かべている。

「コーヒー、おかわりしない?」

気づけば彼女のカップは空だった。

「うん 店員呼ぶね」

少し残っている自分のコーヒーを飲み干し、再びベルを鳴らす。

遠くでコーヒーカップを拭いていた先ほどの店員は手を止め、コチラへやってくる。

「コーヒーのおかわり頂いてもいいですか?」

「かしこまりました」

この店員は要領が良い人なのだろう。
余分な対応をせず、必要最低限で最高の接客を行うタイプの人物だ。

すぐさま店員はミルクを2つずつ片手に持ち、コーヒーのおかわりを注ぎにきた。

「ごゆっくりどうぞ」

笑顔を見せ、店員は去っていった。

「あの店員さん、私は苦手」

声が聞こえない程度離れたあと、彼女は呟いた。

「なんでも要領よくできて、無駄がない、少なくともここの店員として、人間として完璧
そういうの、私は怖い」

店員の姿を見るわけでもなく、
彼女は遠くを見つめている。

「あなたは? そういう人、どう思う?」

どうと問われても。
率直な感想はそれだ。
一般に理想的な回答は、相手に同調することだが、それを求めているとは思えない。

「僕は、尊敬するよ
羨ましい、そう思う
自分にはあんな要領のよさが無いから」

不器用で、一歩置きたがるのが自分だから。
言葉にこそ出さなかったが、自分の嫌なところは沢山列挙できる気がしてしまう。

「あなたのこと、心配」

彼女の表情は何だか悲しげだ。

「そう、だよね」

自分の声は弱々しく聞こえた。

「うん だから決めた」

決めた。 なにを。

「私と付き合って」

彼女は、雨音は、何者なんだ。