23 | もしも君が迷ったなら

もしも君が迷ったなら

思いついた言葉を詩に。思いついたストーリーを小説に。

優子は美容師の手を鏡越しに見ていた。まるで魔法のように動く手。肩より少し長いくらいの髪の毛を指ですくい、ハサミを自分の手のように動かしていた。
何だかよく分からないが、優子はワクワクしていた。どんな風に変われるのだろう。鏡の中の自分を見ながら、期待が膨らんでいった。

「はい、お疲れ様ぁ。」
そう言いながら、ケープを外される。毛先にはシャギーが入り、センター分けだったのが、8:2分けにされている。
「・・・。」
優子は驚いていた。髪形一つでここまで変われるのかと。
「おっ。いい感じじゃん。」
いつの間にか翼が現れる。
「翼君・・。」
何処に行ってたの?と聞こうとして言葉を飲み込む。何だか聞いてはいけない気がした。何故かは分からない。
「ん?どした?俺の顔に何かついてる?」
支払いを終えた翼が戻ってくる。
「ううん。」
「んじゃ行こうか。」
そう言うと翼は先立って歩いた。優子は翼の後をついて歩いた。

 

「もう夕方かぁ。早いなぁ。」
翼は夕暮れを見て、呟いた。
「送って行くよ。」
「ありがとう。」
「俺んちから近いしね。」
翼は不思議な人だとつくづく思う。太陽のように明るい笑顔を見せたと思ったら、ふとしたときに妙に真面目な顔になる。まるで別人みたいなのだ。何故かそのことを聞くことができなかった。聞いてはいけない気がした。
「翼君・・。」
「ん?」
「ありがとうね。」
「どしたの?急に。」
突然お礼を言われ、翼は驚いた。
「あたし・・ずっと変わりたいって思ってた。でも・・なかなか勇気でなくて、ホントはね、こうやっておしゃれしたりするの、憧れてたの。でも似合わないだろうなって諦めてた。・・だから今日こうして新たな自分って言うか、生まれ変われた気がして。すごく嬉しい。翼君のおかげだよ。ありがとう。」
「お礼言われるようなことしてないけど。優子さ、もっと自分に自信持っていいよ。十分魅力的なんだからさ。」
「えっ。」
翼は深い意味では言ってないのだろうが、優子はドキッとした。それはどういう意味なんだろう。期待、してもいいのだろうか。優子は今が夕暮れで良かったと思った。顔が多少赤くても夕日のせいに思える。
翼はどう思ってるんだろう。どうして自分にこんなに構ってくれるんだろう。とても不思議だった。