そんな甘くないという実感を味わうのは早かった

不自由な生活を身をもって感じている

 

微小な生活費を切り詰めていくしかない

それでも食事だけは何とか、やり繰りできていた

大半を貰っているのだが、まち子は庭端の小さなプレハブ小屋に

即席のバーバーまち子をOPENさせた

洗髪のできない、あるのは椅子と鏡、あとは殺風景な小屋という感じだ

 

先ずは旦那からだな

誰と会うわけでもないからな・・・

「ねえ、聡くん」年上のまち子はいつもそう呼ぶ

聡くん、髪切ろうか・・・

聡はまち子にお任せで髪は切ってもらっていた

別に髪形にこだわりのない聡は「お願い!ボサボサでさ・・・」

まち子は「うん!さっぱり行こうよ」

まち子は内緒にしていたことがある、なんで理容師になったか

坊主フェチだった、勢いよくバリカンで刈る、時には手動のバリカンで

カチカチと刈るのが好きでたまらない

 

そんなフェチを言えないまま、今まで来ていた

「やっと・・・うフフフ・・・心の中でにんまり」

 

お!こんな即席の床屋作ったんだ・・・

ま、しばらくは家族専用理髪店だね

笑顔の裏になんとも濃艶なまち子がいる

太った体型にも関わらず、ショートパンツにTシャツ、サンダル姿

当然、娘2人も太っている

 

聡くん、ここに座って

即席といえども一応、美容室で使われていた古びた椅子に腰かけた

まち子の首に巻いていた汗のついたタオルを聡の首に巻いた

ちょっと怪訝そうな表情の聡を気にすることなく

持って来た白いクロスを掛けた

 

小さな鏡は床に置かれていた

 

「じゃ~行くね」

聡の額から手動バリカンの刃が入り込んだ

「えっ坊主にすんの・・・」

大丈夫、格好よくしてあげるから

う、うん

そのまままち子は薄ら笑みを浮かべてアタッチメントの付いていない

銀色のバリカンを握り右手で挟みながら刈っていく

バリカンの後は当然、真っ白になっている

高校球児、坊さんと同じように

「カチカチカチ・・・」

「カチカチカチ・・・」

 

刈りながら、電気のほうが早いんだけど

まだ、こっちに持ってきてないでしょ・・・

 

窓を全開にして涼しい風が吹き抜ける

刈った髪は床に散乱していく

 

快感!心の中で呟く

何度も何度も手動バリカンは聡の頭を行き来する

 

まち子の脂肪の付いた手のひらで聡の頭が揺れている

「カチカチカチ・・・」

「カチカチカチ・・・」

 

30分は経過していた

 

終わったよ!こっちに来て・・・

クロスを外して、汗の付いたタオルを持って

真っ青に刈られた聡を連れて、井戸水へ向かった

 

「あ!ダメ!触ったら・・・」

「洗ってからね・・・」

 

まち子はニコニコしながら聡の手を引き

井戸水場にやって来た

 

ねえ!静香、いるんでしょ!

娘にシャンプーを持ってくるよう呼びつけた

 

「ママ!はい」とシャンプーを手渡しパパの頭を見て吹き出しそうになっていた

まち子は睨みつけながら「口に指をあてた」

静香は黙って頷いた

 

ちょっと冷たいよ

そう言いながら静香は井戸水の引き手を上下させる

勢いよく冷たい水が聡の頭に掛かる

「ひょ~冷たいな・・・でも気持ちいいよ」

うん良かった

シャンプーを頭に垂らして洗い始める

手慣れた手つきで泡立たない頭を撫でまわす

 

「はい!頭上げて」

さっきのタオルで聡の頭を拭き上げた

 

「お~さっぱりした」

 

聡はおもむろに頭に手をやった

「おい!髪ないじゃん」

まち子は勝ち誇った顔で自給自足!髪はいらないでしょ

そう言いながら洗い立ての頭にキスをした

 

つづく