ひそひそ話で凛香とさとしは頷いた
「じゃ~行きますか・・・」主導権は凛香が握っている
「いたよ!」やっと見つけた
わざとらしく忙しく探したふりをしてみる
うん、わかった
「電話した!」じゃ~行こう
急ぎ足でなんとなく慌てた様子を醸し出すさとしと凛香
「あっ!いた」先に待っていたのはまち子だった
「もう!何処行ってたの・・・!」
当然の如く叱られてしまった
「僕だってたまには、いろいろ見たいものもあるよ!」
めずらしく、まち子に反論する
まち子は黙ってしまった
「そうね・・・」
さとしはまち子に「呟いた」
君も僕の前で髪切ってよ
甘えるような口調でまち子の目を見ながら呟く
僕らだけ、髪切って君が切らないのは・・・
まち子は驚いた
「初めて反抗するさとしをジッと見つめる・・・」
私に髪切ってほしいの・・・
さとしは「コクっと」頷いた
「へ~そうなんだ!、切ってほしいのね・・・」
「いいわ!切ってあげる、さとしくんの前で」
さとしはうれしそうな微笑みで「ほんと・・・」やった~
無邪気に悦ぶ、そのやり取りを冷たい笑みで見つめる凛香
「じゃ~行こう!」
まち子の手を引いて歩いてショッピングモールから出ていく
凛香もそのあとを付いていく
まち子は引っ張られる格好でさとしの後ろを歩いていく
さとしは男性で、力は負けない
ここだよ!
「えっ・・・・」
トタン屋根の古びた床屋が今にも潰れ落ちそうに佇んでいる
古びた回転ポールが鈍い音を立てて回っている
枯れた植木鉢が無造作に並んでいる
今時珍しい引き戸でシミの付いたカーテンが掛かっている
さとし好みのお店だった
お店に入る前、暇そうに煙草を吸っている意地の悪そうな老婆が散髪椅子に座っている
さとしは気にせず引き戸を引いた
「ギ~ギ~ギ~」なかなか引けない
何とか開けて店に入る三人
「老婆は驚いた表情で椅子から立った」
吸っていた煙草は待合室の灰皿にもみ消した
「お~いらっしゃい・・」低い声で反応する
さとしは躊躇なくまち子を椅子に座らせた
まち子は長い髪をかき上げてさとしを睨んだ
老婆は面倒くさそうに棚からタオルをまち子の首に巻いた
アニメ柄のクロスを続けて掛けた
首には丁寧に髪を巻いた
「で・・・」
さとしは「ワカメちゃんカット」後ろを刈り上げてさっぱりと・・・
老婆に注文した
「昭和の女の子みたいな・・・」そうあんな感じで
指さしたのは古びた昭和女子学生の写真
制服姿で「校則髪型」と書かれている
老婆は「あんな髪にするんかい・・・」独り言のように呟いた
さとしと凛香は待合室の白いシーツの掛けられた長椅子に座った
店内を見渡すと懐かしいダサい髪型の写真が貼ってある
鏡の前には今ではなかなか見ない整髪料と化粧品が埃を
を被って並んでいる
天井からぶら下がる武骨なバリカンが垂れ下がっている
バリカンの刃には前の人の髪が付いている
老婆はおもむろに天井からぶら下がるバリカンを引っ張った
「その行動をジッとみつめる」凛香とさとし
老婆は鏡の前の小さなブラシで刃に付いた髪を掃き磨く
そのまま電源を入れて、いきなりまち子の後頭部を刈っていく
髪にブラシも櫛も入れずにそのまままち子の頭を抑えつけて
後頭部を真っ青に刈りこんでいく
「ビュ~ンガリガリガリガリ・・・」
「ガ~ガ~ガリガリガリ・・・・」
長い髪が床に落ちていく
耳の付け根辺りまで、素早く刈りこんでしまった
「青々とした後頭部が露出する」
それでもバリカンは止まらない
今度は頭を引き戻し、髪をつかみバリカンで切り落とす
「が・・か~が~」
先ほどとは違う音が店内に響く
巧みな技でバリカンはつかんだ髪をそぎ落とす
結構長い時間、バリカンの音は店内に響き渡っていた
バリカンが終わるとバリカンを天井に戻した
バリカンの刃にはまち子の髪が付いている
今度は霧吹きで髪を濡らし始めた
水滴がまち子の顔に流れる、クロスにも流れている
ここでようやく櫛で強引に髪を梳かしていく
髪が櫛に引っかかっても何度も何度も強引に髪を梳かす
さっき乱雑にバリカンで刈った髪は予想外にも
耳下あたりで適度な長さを残し、おかっぱになっている
全体を櫛で梳かして真っすぐに下ろした
使い込まれたハサミで耳の真ん中辺りで揃え始めた
老婆は眼鏡を掛けて、ジッと髪を見ながら揃えていく
「ジョキジョキジョキ・・・」
「ジョキジョキジョキ・・・」
あっという間に耳真ん中から後頭部まできれいに揃っている
定規で測ったかのように真っすぐ揃っている
まち子は困惑した表情で下を向いたり、鏡を見たり落ち着かない様子
まち子の前に立つと・・・
つづく