私はバイト先の先輩に恋をした。


先輩が女の人を恋愛対象に見ない事は知っているし

そういう人に恋をしたら、自分が傷つくことも知っている。


それでも私は、先輩の事を諦められなかった。


「理佐ちゃんお疲れ様。今日も疲れたね。」


「お疲れ様です。雨だったのに人、結構来ましたね。」


「そうだね、珍しい...」


「...」


梨加さんと出会ってまだ数ヶ月。

お互い人見知りなのもあって、距離は未だに全く縮まっていなかった。

会話も続かず、ただ綺麗な梨加さんを見ることしか出来ない自分は情けないという言葉に尽きる。


「あっ梨加ちゃん、例の人今日も来たの?」


スタッフルームに入ってきた店長は、シフト表を見つめる梨加さんにそう声をかけた。

それに対して梨加さんは頷く。


「例の人って何ですか?」


気になって店長に確認すると

梨加さんがお客さんに少し前から付けられているという事だった。


最初は偶然だと思ったそうだが、すれ違った時に連絡先を渡され確信したそうだ。


「大丈夫なんですか?」


「そのお客さんが来ると手が震えちゃって...」


首を横に振った梨加さんは、そう言いながら胸の前で右手を左手で握っていた。


「どうにかしないとですね...」


「対策考えないと、怖いね。」


店長は悩ましそうに腕を組んだ。


「とりあえず、今日は私が梨加さんを家まで送ります。」


「ほんと?じゃあ理佐ちゃんよろしくね!」


店長にそう言うと、安心したように売り場へ戻って行った。


「勝手に決めてすみません。」


「ううん...ありがとう。」


梨加さんは申し訳なさそうな顔をしていた。


付き合っていたら、そんな顔させることも無かっただろうな...


なんだか少し、悔しかった。









「着いた。今日は居なかったみたいで良かったですね?」


「うん...」


ほっとして梨加さんとわかれた私は、自転車を走らせ家に向かった。


ガチャッ


「ただいまー」



家に着きソファに座ってすぐ携帯がなった。

ピコン


どうやら梨加さんからみたいだ。


通知を開くとそこにはこんなことが書いてあった。



『さっき理佐ちゃんに送ってもらったあと階段登ってたら、例の人が上から降りてきてすれ違ったの...』










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