このたび27年続いた炎の蜃気楼シリーズが環結(過去400年の物語が第一巻に還ってきたとのことでそう呼ぶようです)しました。
私はこの作品に何度も何度も打ちのめされて、いろんな感情で翻弄され心沸き立ったり泣き濡れてきたのですが。
その翻弄の度にかけがえない作品になったし、私の物語を楽しむ指針を形作った作品でもあります。
沢山の面白い作品を読んだり見たり、心動かされて楽しんでいますが、良く良く考えると根底に蜃気楼がベースとしてあるのです。
そんな私の聖書が幕を引きました。
これ以上ないほどの完結は、本編最終巻で受け取りました。
その感覚は今でも変わらずです。あれほどの、美しく切なく、名残惜しく余韻のある終わりを読めたことは僥倖です。
その気持ちは結晶となって何年経っても胸にあります。
直江が生き残ってくれて良かった、生き抜くと言ってくれて良かった、愛を証明すると言ってくれて良かった。
心から高耶さんが直江の愛を信じて逝けて良かった。
この後の直江のことを思うとそれだけで涙が出そうです。
最終巻を読んで、私は直江をようやく心から知りたいと思ったのかも知れません。
最後を読むまでの私は直江と高耶さんの関係がどうなるのか、その一点が気になって読んでいた気がします。
その楽しみ方に後悔はありませんが(じゅうぶん楽しんだし)
直江を理解したいのであれば、もう一度読み返さなければならないなと思ったのです。
それでも全40巻は重かった。
あの絶望をもう一度味わわなければならないのかと思うと、なかなか読み返すのに踏ん切りがつかなかった。
そしてあっという間に10年以上経ちました。
読み返すぞという思いもおぼろげになってきた時、思い出せとばかりに景虎様が念を送ってきたのかも知れません(笑)
本編の過去が、本編に繋がる四百年が埋まるというではありませんか!
たしかに邂逅編が続いていたのは知ってましたし、幕末編の表紙も昭和編の表紙も本屋で目にはしていました。
それでも番外編のような感じでいたのです。
まさか本編に繋げていく物語だったとは…
作者の水菜せんせの胆力に度肝をぬかれました。
どれほどの精神力の持ち主なんだと恐れ入りました。
四百年の物語を、描く…途方もないなと感じたものです。
それを読まずして、蜃気楼は語れないではないですか。
そして、邂逅編からの前日譚を紐解く決意をしたのです。
楽しかった。この一ヶ月半、蜃気楼の世界観に浸ってただひたすら楽しかった。
最近、遠ざかっていた感覚が一気に戻ってきて、本の中の世界に一喜一憂することがこんなにも日常でのエネルギーになるとは離れてみなければ分からなかったです。
やっぱり蜃気楼は私の原点だなと思いました。
一巻へ還るお話は壮絶でした。
本編で語られていた内容でしたが、それでも全容を知るとぞっと背中が冷たくなりました。
そこに至るまでの、直江と景虎様の感情を余すところなくぶつけられて
ただただ茫然と文字を追うしかなかった。
信じている、という言葉を信じられなかった直江は、疑心暗鬼の末に美奈子を凌辱しますが
こう仕向けたのは景虎様ではないかと私も思ったくらいです。
あの状況でひとを信じきるということのむずかしさ。
信じていたのに、と最後の切り札としてしか直江に信頼を表せなかった景虎様の孤独は察して余りありすぎる。
その孤独を直江は罪を犯すまで、理解できてなかったんですね。
美奈子の景虎を産む意思も読んでいてなかなかの狂気でした。
愛した男を産む。直江の子として景虎を産む。
想像を絶します。ここのくだりは本当に嫌悪しかなかったです。換生という行為の惨さの真骨頂という気がしました。
死人が生を奪う、という一貫したテーマが冊を重ねるごとに圧し掛かるようなお話でしたが、最終巻は容赦なかったです。
辛すぎると涙の一筋も出ないことを知りました。
直江の罪が美奈子の妊娠という形であらわになる。景虎様がそれを知る。
これほどの絶望を、否応なく読まなければならないと知っている私のページを繰る指が鈍重になるのはしょうがない。
ああ、知ってしまう。
ああ、この時が来てしまう。
ああ、晴家おねがい言わないで。
知ってしまった景虎様の怒りようはすさまじく、まあそうなるわな、と乾いた笑いがでましたが。
でも私は、その怒りに納得はできなかったのです。
信じていると美奈子を託した景虎様に納得が出来てなかったのです。
信頼を寄せるほど直江に信頼を返してもらえるほどの気持ちを景虎様は返していたか?とその点だけは疑問だったのです。
ひとは言葉にしてもらわないと絶対に通じ合えないと思うからです。魂の片割れだとしても、右腕だとしても。
納得できなかった分、景虎様は直江の罪をどう飲み込むのだろう?と思っていました。
私は期待してしまう。景虎様の奥底にある暗い暗い部分に期待してしまう。
果たして。
これであの男を手に入れた
この一文に私の求めていた暗い喜びが詰まっていて
うわあああああ
と声に出てしまいました(完全に気が触れている)
この言葉が聞きたくて辛い辛い辛い言いながら読んでいたのかもしれません。
この言葉が無ければ、私は景虎様の直江への気持ちを信じ切れなかったと思います。
直江だけが膨大な執着をしているのでは満足できない私のエゴです。
景虎様も直江と同じくらい、いやそれ以上に狂気を孕んで直江を想ってほしい。
それすらも満足させてしまう、蜃気楼の物語の厚み…!
織田に監禁された直江と美奈子を助けにきた所も感情がうまく起伏してなくて
なんで景虎様が直江を助けにくるんだ、なんで美奈子のほうへ行かないんだ。
直江がどんな気持ちでいると思ってんの、これ以上直江を打ちのめすの?
と完全に被害妄想。情緒がおかしい。
台詞ひとつひとつに揺り動かされて、とうとう涙腺は崩壊。
直江が景虎様を美奈子に換生させる頃には心も脳も疲弊して虚ろになってました。
自然に涙が流れてきて視界がぼやけて文字を追うのも困難。
直江はひととして許されざる行為をしたのは、誰から見ても明らかだけれど…
でも直江の課せられたものが大きすぎるよ…
それを受け入れる直江がすごいよ…これが…好きに…なれずに…おれようか…
直江~~~
そしてラスト、炎の蜃気楼の一巻にかえっていく松本のシーンは感無量というか。
これから始まる本編の色がばーっと変わっていくというか。
直江の視点から見た高耶さん(と沙織)はこうだったんだ。
こんなに切なく、複雑な気持ちですれ違ったのかと思うと…
嗚咽がでる。
赤い蜃気楼、炎に照らされたように
のラストの一文でこらえきれずに声をあげて泣いた。
さて。これから直江視点での炎の蜃気楼本編を一から再読しようと思います。
きっと違う世界が見えてくるでしょう。
何度も何度も私を夢中にさせてくれるこの作品はやっぱり私のオタク嗜好のベースなのだなあ。
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