植物の“メッセージ”が昆虫に届かない!? 人間が破壊する自然界の“絆”
現代ビジネス
NHKスペシャル「超・進化論 第1集 植物からのメッセージ ~地球を彩る驚異の世界~」は、第64回科学技術映像祭において内閣総理大臣賞(自然・くらし部門)を受賞! 生命誕生から40億年のあいだに出来上がった生き物の隠れたネットワークやスーパーパワーが、最先端科学で次々と解明されている!
NHKスペシャル シリーズ「超・進化論」では、5年以上の歳月をかけて植物・昆虫・微生物を取材。そこには常識を180度くつがえすような進化の原動力があった。 書籍化された『超・進化論 生命40億年 地球のルールに迫る』で、最初に紹介するのは「植物」。
私たちの地球で陸上にいる全生物の重さを足し合わせると470ギガトンにのぼる。
そのうち、人間が占めるのはわずか0.01%。対して植物はなんと95%に達する。
しかし、植物は知性とはほど遠く、人間よりもずっと下等な存在だと考えられてきた。ところが最新の科学によると植物は、植物同士だけでなく、昆虫などの他の生き物と豊かなコミュニケーションをしていることや、地下に共存ネットワークを築いていることがわかった。ところが今、環境破壊がそれらに大きく影響しだしている。
連載第1回は<「今、私食べられている!」植物にも動物のように“感覚”があった! 可視化された事実が凄すぎた! >はこちら。
---------- 【画像】知られざる地下の世界…木は別の木を助けて生きていた
オゾンの増加や温暖化で植物たちのメッセージに異変が
世界各地の森に設置されている観測タワー。木々が放出する揮発性の化学物質を測定している。森が環境のさまざまな変化に応じて、化学物質を放出していることがわかった。(c)NHK
世界各地の森には、森から放出されるさまざまな化学物質をモニタリングするための観測タワーが設置されている。東フィンランド大学環境・生物科学部教授のジェームス・ブランドさんがフィンランドの森で、タワーの役割を教えてくれた。
「このタワーでは、木々が放出する揮発性の化学物質を測定しています。樹冠の高さは植物ごとに異なるので、さまざまな高さで化学物質を捉えられるようにタワーに測定器を設置しているのです。研究の結果、環境の変化を感じた植物が、周囲の他の植物に何かを知らせる化学物質を大量に放出していることがわかってきました」(ブランドさん) ブランドさんによれば、今、オゾン増加や温暖化などによって植物のコミュニケーションに異変が起きているというのだ。排ガスなどからできるオゾンには、植物が放出したメッセージを分解してしまう作用があるという。
「オゾンは植物が発するメッセージである揮発性の化学物質と反応し、分解してしまいます。さらに葉の気孔にも影響し、メッセージを受けとる能力を低下させると考えられます」 オゾンによって植物の声が奪われれば、周りの植物への警報が届かなくなるだけでなく、ハチなどの花粉の運び手を呼べなくなる。
「温度や湿度に応じて、植物は放出する化学物質を変えるので、温暖化も植物と植物、そして植物と昆虫との関係に影響を与える可能性があります」
地下のネットワークが逆に悪い方向に作用する
世界中で今、森林が破壊され続けている。幼少期に人里離れた森の中に住み、木々に囲まれてすごしたというジャスティン・カーストさんが心配するのは、森林破壊による地下のネットワークへの甚大な影響だ。これまで恩恵をもたらしていたはずの地下のネットワークが逆に悪い作用を始め、悪循環に陥る危険性があると言う。
「菌糸ネットワークの働きは、健全な森では有益であったのに、木々がどんどん死んでいく状況ではコストになります。森林が大規模に破壊されると、地下のネットワークが働かなくなって、若い木が育たなくなるでしょう」(カーストさん) 植物たちのコミュニケーションの遮断、地下のネットワークの機能不全。植物に頼って生きる動物に悪影響がないとは考えられない。もちろんわれわれ人類にも。
「私たちは自然の一部です。自然に悪影響を与えれば、私たちも悪影響を受ける。だからこそ私たちは自然についてもっと学ばなければならないのです」
次回は<NHKスペシャル「超・進化論」ディレクターが見た、人間が見えていない“生き物たちの別世界”>です。3/20公開です。
NHKスペシャル取材班+緑慎也