ラヴィリティアの大地第35話「繰り返される勇気」 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

【前回まではこちら】☆人物紹介はこちらから→

 

 

 

その日の森の都グリダニアも未来永劫繰り返される朝と夜を迎えるために赤く赤く夕陽で染まっていた。鬱蒼(うっそう)と茂るグリダニアの木々から溢れるエオルゼアの夕陽を、織物に忍ばせる金箔かのようなその光を滑らかな肌で浴びながらこの物語のヒロインであるクゥクゥ・マリアージュがミィケット音楽堂からグレートローム農場へと駆け抜けていく。農場に出る為に潜る、麦の意匠が施された旗を掲げる農場門の真下に淡い夕陽のエンジェル・ラダーを背にした人物の姿が見える。その姿はクゥクゥがずっと探していたクラン『Become someone(ビカム・サムワン)』の眉目秀麗なリーダー、青年オーク・リサルベルテだった。僅かな不安を胸にしていたクゥはその姿を目視して安堵する。またオークは光に透ければファウンテンブルーに変わる棗椰子(なつめやし)色の瞳に親愛なる仲間のクゥの姿を映した。クゥは目を細めて彼の名を口にする

「オーク、待たせてごめんね」
「クゥ、来てくれてありがとう」

オークの謝辞にクゥは首を緩く振った。オークに促されクゥは歩き始める。それは以前と同じ道程、リヴァイアサン討伐叙勲のときに道を違えた下り坂だ。あの時よりも小さい気まずさをたずさえながら肩を並べ始めたときオークがふいに話し始めた

「君がラベンダー・ベッドを出た日、本当は俺の気持ちをちゃんと伝えようと思って戻ってきたんだ」
「え!?」

グリダニアの夕陽はまだ沈みきっていない。全く前振りのないオークの唐突な告白にクゥは驚きを隠せず声を上げた。ある意味切れ味の鋭いオークの話は続く

「ある人に言われたんだ、想い合ってる同士なのに離れる必要があるのかって」
「!!!」

うつむき加減なオークの横顔を見ながら思わず叫びそうになったクゥは片手で口を塞ぎ、声にできない驚きで頭がいっぱいになる。もはやオークが誰に何を話し、誰がオークにそう告げたのか。オークの突如の独白に慌てふためくクゥ。のどかなグリダニアとはいえ園芸師ギルドの前を通って行かなければならないあの苦い思い出の場所は冒険者の往来がそこそこある。そしてオークのそこそこ大きい声は周りの行き来する冒険者や仕事を終えて帰路につく現地の人の視線を集めた。痴話喧嘩かな…そんな声までクゥには聞こえた気がする。しかしオークの耳には全く届いていないようだった。何もかもいっぱいいっぱいのオークはクゥへの気持ちを洗いざらい言葉にしていった

「クゥに告白されて嬉しかったし心の中で舞い上がった、だけど同時に嘘だって考えが過ってしまった。俺の遠回しなプレゼントに喜んでもらえたとか君の笑顔が俺だけに向けられてたんじゃないかとか独りよがりな幻想も抱いた」

クゥは最初こそ恥ずかしくも嬉しさが勝っていたがオークのただならぬ本音にだんだんと頭が冷静になっていった。オークの苦悩がクゥに伝わり始める

「そんなどうしようもない人間なのに、こんな自分が君に選ばれる訳がないって思った。俺の拭いきれない劣等感があの時の君の決死の言葉を無かったことにしたんだ」

クゥはそんなことないと、すぐにでも言葉をかけたかったがそれをぐっと堪えた。オークは目を伏せて絞り出すように言葉を発した

「すでに、それらが俺の弱さを押し付けたことだったのに」

オークを傷つけた、クゥは瞬時に思った。自分は何もしていないのかもしれない、けれど彼が傷ついていたのは紛れもない事実で。自分が上手く隠し通せず喜んでいる姿を彼はどんな気持ちで見つめていたのだろうとクゥは思いを馳せる。オークは伏し目がちだった視線を上げ言葉を重ねた

「本来俺の身の上なんて君に関係はなくて押し付けるつもりもなかった。俺の人生に付き合ってもらおうなんて本当に思ってなかったんだ。だけど…」

“あの場所”まで二人は辿りつく。オークは半歩後ろを歩くクゥを振り返り彼女とその場で向き合った

「離れて思い知らされた、たった数日だったのに君のいない頃の自分にはもう戻れないって。君が隣にいないことに酷く打ちのめされたよ」

そこから何か応えたいのに言葉が喉につかえて出てこないクゥはただオークの言葉を聞くことしかできなかった。クゥの潤んだ瞳にオークが語りかける

「君の勇者になりたい夢を…君の大切な人生を何も持たない何も成し得ていない俺の、途方もない人生の道程が君の行く手を阻むかもしれないと勝手に憂いた。だから一緒に居てくれなんて口が避けても言えなかったんだ」

二人の間をエオルゼアの大きな風が駆け抜けた。クゥは口を開きかける

「オーク…」

話を止めようとしてくれるクゥのその唇をオークは優しく片手で制しながら気持ちを伝え続けた

「君の気持ちに応えることは俺の弱さを押し付けることになるんじゃないかって決めつけて、君を傷つけて遠ざけた。勝手でごめん、本当にごめん」

オークの謝罪にクゥは小さく首を横に振り続ける。自分よりもずっと大人びていて、いつも遠くから手を引いてくれていたオークが今こんなにも自分の近くにいる。心を丸裸にするオークを今すぐ抱きしめてあげたいとクゥは心からそう思った。オークの話を全て聴きたい、クゥは話されるままオークの言葉に耳を傾けた

「君を大切にしてくれそうな男性が突然現れたら、君の幸せを願えず冷静な判断ができなくて誰かれ構わず掴みかかってしまう男だけど、今さらだってわかってるけど」

オークは目を反らさず言葉を切ってクゥに告白した

「好きだ。君を幸せにしたい、君を幸せにするのは俺がいい。もうずっと前から君が好きなんだ、大好きなんだ」

クゥの瞬いた瞳から溢れた一筋の涙がエオルゼアの星の光を反射する。その想いを宿した“光”をオークの右手が受け止めた。涙ごと救い上げるようにオークの手がクゥの頬を纏う熱に触れながら彼女に乞う

「傷つけてごめん、でも君を諦められない。後出しなのはわかってる、それでも君を愛したい。その資格がほしい。恋人同士になりたい、俺の恋人になってほしい」

最後は子供がねだるようにオークは自信無さげにクゥに懇願した

「だめかな…?」

言いたいことはたくさんあるけれどなんだかオークに全部言われてしまった、それでもクゥは心の底から嬉しかった。自分に都合の良い夢を見ているんじゃないだろうかと途端に怖くなり信じられず、クゥはずっと力の入らない手を胸で握り込み最後の勇気を振り絞ってやっとの思いで言葉を吐き出した

「私、好きでいていいの?オークのこと…私も諦めなくていい?」

腕を震わせるクゥの様子にオークは一瞬考え控えめにくすりと笑い言葉の代わりに、クゥを受け入れるように腕を広げた

「おいで」

オークの言葉を合図にクゥはその腕に勢いよく飛び込んだ。クゥを強く抱き込んでオークは彼女に囁いた



「今ここで約束する、これからは必ずクゥにきちんと打ち明けてその上で君と相談して悩んで解決していきたい。ひとりで判断しないで、二人で。」
「うん、私も。一緒に考えたい…私こそオークがこんなに悩んでたのに気づかないで、一方的に気持ちを押し付けてごめんなさい」

強く縋り付くクゥを抱きしめながらオークは首をやさしく横に振ってお互い謝るのはもうやめようと態度で示した。オークが自身の体からクゥをほんの少し離して両手で彼女の顔を包み込む

「あの時の答え、俺も君が好きだよ。やっと伝えられる」
「私もあなたが大好きです」

同じ速度で二人の影が重なる。この地で幾度となく繰り返されてきた勇気ある想いを通い合わせた恋人たちの境目が溶けてひとつになるように、同じくしてグリダニアの淡く明るい星空へ溶けていった夕陽を追って蛍たちが天に上り彼らを祝福しているようだったー。




(次回に続く)

 

↓他の旅ブログを見る↓

 

 

 

読者登録をすれば更新されたら続きが読める!

フォローしてね!

ぽちっとクリックしてね♪

 

☆X(※旧ツイッター)

 

☆インスタグラム

 

☆ブログランキングに参加中!↓↓


人気ブログランキング