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こんなにも幸せな朝があっただろうかー。
グリダニアの冒険者居住区、ラベンダー・ベッドが育みを営み始めたばかりの若者達に一日の始まりを告げる朝日を注ぐ。この物語のヒーローであるオーク・リサルベルテは幼いころ誰しもが経験した、確かにあったはずの愛しき両親と迎えた朝の記憶が曖昧だった。愛しい者と、愛してやまない彼女クゥクゥ・マリアージュと迎える朝がこんなにも幸せだったとは想像を絶する気持ちだった。恋人とのあれそれでここしばらくオーク自身は眠りが浅かったが昨夜クゥクゥを胸に抱いたことで安心して眠りが深くなった。頭がすっきりしたせいだろうか、恋人のクゥよりも先にすかっと目覚め、逆にクゥのほうはオークが好き過ぎるせいで完全に油断し気が抜けて一向に起きる気配がなかった。彼女の顔をいつまでも見ていられる─、あどけない少女の面影を残したクゥを起こさぬようオークは一番側でそっと見守り続けていた。するとクゥの唇が僅かに隙間を開け、すっと呼吸をしたかと思えば瞼が震えた。少しだけしっとり濡れていた目尻をぱちりと開きクゥが目を覚ました。それを確認してオークは彼女に声をかけた
「クゥ、眠れた?」
「…なんで私のこと見てるのオーク…!」
恋人に寝顔を見られた、クゥは自身が羞恥に駆られるその寝覚めの出来事にオークから頭を反らしそのまま顔を枕に押し付けた。そんなことをしたってベッドから抜け出せるわけでもなく逃げる場所なんてどこにもない、クゥの小さく無駄な抵抗はオークの愛しい胸の内を甘く締め付け笑いを誘った。クゥは尚も彼に抵抗する
「お願いだから笑わないで」
「わかった、俺が悪かったよ」
クゥは顔を伏せたまま精一杯でオークに手を伸ばし彼の服を小さくつまみながら、彼のいたずらめいた愛しい振る舞いに抗議の意を示した。オークはクゥのその小さな手を掴んで彼女の半身をその場に起こした。ふたりの空気が途端に甘くなる、お互いに朝の挨拶を口にした
「おはよう、クゥ」
「オーク、おはよう…」
オークの片方の手がクゥの頬の輪郭をなぞってふたりの顔がだんだんと近づく。おはようのキスだ、クゥが辛抱堪らず先に目を閉じて半ばねだるような仕草で口づけを乞うて彼女の唇にオークの吐息が当たったのか当たらなかったした時、オークは突然クゥから手を放しその場から飛び退いた。クゥはほわんと目を開け抜けた声を漏らした
「…え、どうしたのオーク?」
「そ…とに…」
「え?外?」
オークの視線の先を辿るとクゥの後ろ側に有るのは本がひしめく彼の部屋の明り取りである唯一の窓だ。その窓の外から小さな影が姿を現しこう言った
「オークとクゥがちゅっちゅしてる」
「ケイちゃん…!?」
この物語の主人公であるオークとクゥが所属する冒険者クラン『Become someone(ビカム・サムワン)』の天才弓術士であり天使であるケイ・ベルガモットが二人の姿を窓から覗き見していた。叫び声を上げたクゥは後ろに下がったオークにしがみつき、パニックを起こしたその彼女を抱きかかえるも更に後ろヘ下がったオークはベッドから転落する。ここはグリダニアの冒険者居住区ラベンダー・ベッドだ。
「仕方がないだろう、邪魔したら悪いし。」
「…普通に声をかけてくれたらいいじゃないか、オクベル」
「だって事が起きてたら困るだろう?」
「それは…」
「自重します…」
か細い声でオークとクゥは、クランの副リーダーである女冒険者オクーベル・エドに申し開きをしていた。どうやら先程の接吻未遂事件の際ケイに様子を見てくるよう指示した、美しい副官の彼女が悪気があるんだか無いんだかな様子で他のクランメンバーと共に二人の顔を1階リビングに揃えさせていた。オクーベル女史は話を続ける
「それで、二人ともやっと恋人同士になったのだな」
「今まで皆に色々迷惑をかけたのは自覚してる、本当にすまなかった」
「みんな見守っててくれて本当にありがとう」
「僕はふたりが仲良くちゅっちゅしてくれてたらいいよ!」
「俺もそう思う」
天使ケイの爆弾発言に短く苦笑するも最後に相槌を打った獣人オウにクゥが微笑んでオークと見つめあった。そんなところでまたオクーベルがオークたち二人にまた尋ねた
「で、式の日取りはいつなんだ?」
「式?」
「ああ、結婚式だ」
オークとクゥは一瞬顔を見合わせオクーベルにまさかと笑いかける。オークが先に答える
「気が早いよオクベル。いずれはそうなったら良いなと思うけれど…」
「オーク…」
今度はお互いしっかり見つめ合いクゥはオークの言葉に感動を覚えた。すると副リーダーのオクーベルは面を食らったように目を丸くしオークに質問を重ねた
「オーク、おまえ結婚式を挙げずに致すのか?色々。本当に?」
「「!!」」
オークの心の銀幕に稲妻が走る。横に座っていたクゥは内心肩を跳ね上げ口を横に引き結び、そろっとオークを横目で見やった。クゥの胸には嫌な予感が過る。オークはオクーベルを前に見据えているようでまるで視界には入っていない感じで、クゥには彼がその場に心非ずといったように見て取れていた。まずいとクゥが思った時にはすでに手遅れで、オークは自分の顔に手を当てその場にいる皆にこう漏らした
「…少し部屋で休んでくる」
「オーク!」
ふらっと立ち上がりおぼつかない足取りでその場を後にするオーク。クゥも合わせて慌ただしく立ち上がりオークを追いかけた。オーク待って、落ち着いてなどと声をかけながら部屋の前までついて行くもクゥは部屋に立ち入らせて貰えずオークに部屋から締め出される。ドアノブに手をかけながら私はそういうの一切気にしないからと、扉越しに精一杯最後に告げるも彼からの返事は返ってこなかった。クゥが気にしなくてもオークが気にするのである。
オークの自室から物音がほとんど聞こえなくなったのが感じて取れるとクゥは程なくしてまたリビングに顔を出してオクーベルを軽く責め立てた
「オクベルちゃんひどい、オークになんであんなこと言っちゃったの!?オーク思い詰めちゃったじゃない、せっかくチャンスだったのに…!」
「クゥ…おまえそんなワンチャン狙ってたのか」
今度はソファに座ったオクーベルの隣に座り、クゥはオクーベルに体と体をくっつけておーいおいと泣きついた
「大体そんな軽い感じでオークに何某か致されておまえは満足なのか、クゥ」
「それは…」
「軽い男ならば嫌なんじゃないのか、もう少しオークとのこと重きを置いてやったらどうだ」
「…わかった、オクベルちゃん」
クゥは鼻を啜りながらもオクーベルの言葉にしっかりと頷いたのだった。クゥはその当夜、気持ちが重なるようにちょっとだけ開いた扉越しのオークと少し言葉を交わすも顔を合わせずそれぞれ部屋で休む事にした。その日からオークとクゥはそれぞれ個人的に請け負った冒険者依頼が偶然重なり、顔を合わせる事が極端に減ってしまう。クゥがラベンダー・ベッドの家に戻らない間オークはひとり密かに決意を固めていた。クゥと交わした『一人で悩まず相談して話し合うこと』という約束を破ってしまうことになってしまうかもしれないけれど、やはり何もかも自分の準備不足が否めないことをオークは自戒して“ある計画”を行動に移す事にしたのだったー。
(次回に続く)
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