ラヴィリティアの大地第38話「育みの営み」後編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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「よし、やるか」

この物語の主人公であり“何者かになる”という志を掲げた冒険者クラン『Become someone(ビカム・サムワン)』の秀才リーダーオークの目の前には様々な手を尽くして掻き集められた書物が文机の上を高く積み上げていた。つい先日晴れて想い人と恋仲になった彼は恋人でありこのクランの回復士(ヒーラー)クゥクゥ・マリアージュとの次なる関係に頭を悩ませていた

(まさか自分がこんなにも早く誰かとずっと一緒に居ることになるなんて思わなかったな…)

愛しい人の頬を撫でるように積み上がった本の表紙を親指の腹でゆっくりとなぞりながら彼は思った。オークはこのエオルゼアの地で『戦士の国』と称されるラヴィリティア国という小国貴族の出自だ。彼はラヴィリティア三大貴族と名高いリサルベルテ家の養子だったが、今日に至るまで自分は国の為だけに命を賭し、良い頃合いでお家の為に婚姻を結ぶものだとずっと思っていたのだった。貴族の結婚即ちそれは家と家との結び付きであり利権が絡むー、そこに愛が存在するのかも危ぶまれる空虚な営みであった

(特に苦手意識があったしなんとなくここまできてしまっていた、俺は何をぼんやりと生きてきたんだ)

先程指でなぞった本のタイトルは男と女の体の仕組みと書いてあった。小さい頃から間違いが起きないようにと女性から遠ざけられてはいたが、成人して家を出てからもお世辞にも人付き合いが良いとは呼べずまた情事経験も皆無に等しかった。うだつが上がらず何も知らない今までの自分が恥ずかしい。そしてオークはそれと同時に恋人の身を案じていた。この世で何よりも愛しい彼女、クゥクゥのことを。もう彼女を何からも傷つけてはいけない、軽く息を整えオークは自分に気合いを入れ直した

(しっかりするんだぞ、オーク・リサルベルテ。いいか、知識を得ることに集中するんだ)

知恵を持たなければ立つ瀬が立たず、また立つ瀬を愚かしく立てまいとすることは彼オークであっても成し難いことだったのだ。



数時間後ー。オークはラベンダー・ベッドの家に越してきたおり奮発して購入した愛着のある自分の文机で意気込んだ気持ちが太陽の傾きと共に、何もかも陰りを見せた頃合いの自室でこの世に現存するであろうありとあらゆる絶望をその身にひしひしと感じていた。彼は冷たくなって震える唇を冷たくなった片手で覆いながら心の中で絶叫する

(無学だった…っ!)

積み上がる本を読めば読むほど自分の底が浅い知識に打ちのめされ、不識の極みに辟易としていた。もう立つ瀬が立つとか立たないかとかの問題では無かったのだ。オークは邂逅する

(…母上のおっしゃっていた通りだったな)

それは亡くなったオークの実の母親との思い出だ。いつか大切な人と出会った時、自らが困らぬよう房術の座学をよく学ぶようにと何度か促された事があった事が今になって鮮明に思い出された。勉強は嫌いでは無かったが女性がひた隠しにする秘事をなぜわざわざ紐解いて暴かなければならないのかと、オークは母親に小さくない反発をしていた。その度に実母は優しく微笑み幾度となく彼を諭してくれた。オークは申し訳無さで胸がいっぱいになった。自分の机に突っ伏して額を擦った。そのまま顔を横に傾け読み終わった本を片手で下から順にペン尻でぱらぱらとなぞりながら思案する

(どの本も情事の実技になると抽象的な比喩表現が多過ぎる…風刺発布物に至っては人間の情感ばかりが描かれているし、逆にその他の人類学や哺乳類の図鑑は交配と受精ばかりに着目していてその仮定記述が一切無い)

これでは八方塞がりだ。正直途方に暮れていたが落ち込んでばかりもいられない。オークはまた額を机に押し付け尚も思案した

(医学書関係ならもう少し踏み込んだ内容が記述されているかもしれない。そうなると寄贈されている所蔵品はウルダハの王立図書館か、あらゆる知識を集めたシャーレアンの蔵書が眠る古い刻から閉ざされているダンジョンかな。イシュガルドにも貴重な文献があるかもしれない)

オークはもう傾きかけていた陽を肩に背負い勢いよく椅子から立ち上がった。自分の頬を軽く叩きもう一度気合を入れ直す

「まだやれることがきっとある」

そう呟いてまずはウルダハ王宮があるザナラーンへひとり足早に向かうのだった。


一方その頃オークの恋人であるクゥクゥ・マリアージュは今日も会うことの叶わない彼の事を想い、同じクランの副リーダーである女冒険者オクーベル・エドの部屋に入浸り小さくない不満を口にしていた。クゥクゥが口を尖らせてぼそぼそと話始める

「オークはちょっと真面目過ぎると思うの、私そんなに頼りないかな?オクベルちゃん」
「クゥ、お前がそんななんかふわっとしてるからオークが色んな物事にのめり込むんだ」
「だってぇ…」
「何度も伝えてるがお前は情事の間なにが起こるかちゃんと知っているのか?ただ抱きしめ合うだけじゃ終わらないんだぞ」
「…」
「オークは連日方々駆けずり回ってるみたいだ、お前とのことをちゃんと考えているから行動してるんじゃないのか」
「でも同じ家に居るのにもう3日もまともに顔合わせてないんだよ?夜頑張って起きて待ってても帰って来なくて朝起きたらもう家を出てるの」
「一緒に食事を取らないのは良くないかもしれないが事が解決するまでお前とは顔を合わせずらいのだろう」
「でも私は会いたい…」

オクーベルは気がついたら黙り込んでしまったクゥにやれやれと小さく溜息をついた。このやり取りをもう数日は繰り返している。やっと付き合ったかと思えば今度はそこから先の男女のあれそれの相談話しを聞かされ捕まっていた。オークに早く抱かれてしまえばいいのに、とオクーベルも思うようになっていた。少なくとも以前の自分の発言が招いた結果でもあるのでクゥを少々邪険にもしづらかった。オクベルが話を続ける

「お前ももう少し主体性をもって情事の勉強をしたらどうなんだ、クゥ?」
「オクベルちゃん、勉強するってどうやってするの?誰にも聞けないよこんなこと…。それにオークとのこと知られちゃうからまたオークが思い詰めちゃうかもしれないじゃない」
「だからウォルステッドに頼むんじゃないか。あいつは冒険者御用達の商売人だぞ、冒険者に欠かせない本も薬もあいつが秘密裏に運んできてくれるし情報も漏れない」
「ウォルステッドさんは男の人だよ…!?そんなの余計に相談出来ないよ!ねぇお願いオクベルちゃん色々教えてよ、この通りだから!!」

体の前に手を合わせて懇願するクゥに根負けをしたオクーベルは、自分の数少ない本立てから一冊の本を取り出してクゥに手渡した。クゥは初めて目にするその本を不思議がった

「この本はなに?」
「官能小説」
「え!?」

クゥは驚き過ぎてその小さな本を手から零しそうになる。オクーベルはそのまま自身の得物である魔道士の杖を背中に携え自室を後にしようとした。去り際にクゥに語りかけた

「それで何が起きるかだけでも覚悟をしておけ、オーク相手ならそれで十分だろう。私は仕事に行く」

オクーベルはいつも被っているお洒落帽子を目深に被った。クゥはそんな彼女を小さくいぶしがる

「…オクベルちゃんはなんでこんなに情事に詳しいの?」
「彼氏が居るから」
「え?いつの間に?誰なの?教えて」
「秘密」

オクーベルはクゥの追求から逃れるように短くそう言い残すと素早く自分の部屋を出ていった。部屋に取り残されたクゥは手渡された官能小説を恐々捲り始めて、ふいに現れる色事の挿絵に顔を背けながら懸命に読み込んだ。その本と格闘している間にオークが自身の自室から出た音に全く気づかず、クゥは必死になってその本に食らいついていたのだった。


その翌々日の夕方、慌ただしく北の国やその先へ足を伸ばしては夜遅くに帰ってくるオークをクゥは今か今かと待ちわびていた。クゥは起きている間にやっとラベンダー・ベッドへ帰ってきたオークを捕まえる。彼女はオークの自室の扉の前から気配がするオークに声をかけた

「オーク、おかえりなさい。一緒に食事を食べようよ?お願い、顔が見たいよ…」

少しだけでいいから会いたい、そう思いながらクゥは扉に額を寄せる。するとドアノブがかちりと小さく音を立ててそっと扉が開きオークが顔を覗かせた。オークは僅かに眉尻を下げクゥを優しく見下ろしながらこう言った

「クゥ、寂しがらせてごめん。でももう全部大丈夫だから、だから」
「…!」

やっと会えたとクゥは彼の顔を見て瞳を潤ませて、溢れんばかりに瞳の形を丸くし次の言葉を待った。オークは言葉を続けた

「付き合って初めてのデートしよう」
「ほんとに…?」
「ああ、本当に」

クゥは嬉しいと言ってオークの首に巻き付いた。クゥが早かったか、オークが早かったわからないけれど二人は抱き合ってから左右に体を揺らし知る営みを十分育めた喜びを分かち合ったのだったー。

(次回に続く)

 

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