日本産科婦人科学会(日産婦)が着床前診断の審査体制の見直しに着手した。その背景には、対象の病気を「日常生活を強く損なう症例」にまで拡大したことによる波紋がある。「目のがん」で審査を待つ女性は「自分からの遺伝で、子供をつらい目に合わせたくない」と切実に訴える。
大阪市の会社員、野口麻衣子さん(37)は生後間もなく、目のがんである「網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)」と診断され、右目を摘出。その後、左目にも腫瘍が見つかったものの、治療で視力は保たれてきた。
病気の影響が再び影を落としたのは結婚後。次男(3)の両目にがんが見つかり、生後3週間で受けた診断名は「両眼性網膜芽細胞腫」。自分の病気が遺伝したことを知った。
次男はこれまで抗がん剤治療などを受けてきたが、視力は大きく低下し、近くの物もぼやけて見えている可能性がある。現在も再発の不安を抱えている。
3人目の出産を望んでいるが、もう二度と自分の病気が原因でわが子をつらい目に合わせたくない。大阪市内のクリニックを通じ、着床前診断を申請。日産婦に一度退けられたが、あきらめきれず、今年4月、再申請に踏み切った。
「遺伝のせいで子供が病気となり、つらい目に合わせることをもう受け入れられない。病気により切実な思いを抱えた人には、着床前診断を認めてほしい。次男が子供をほしいと思ったときにも、希望すれば選べるようにしてあげたい」。野口さんはこう願い、審査の行方を静かに見守る。(三宅陽子)