庭のさつきももう毎年のように最初の花を開き始めている。ぼくがこういう状態であるのに、世界は以前と変らず自らのいとなみを続けているのを見ていて、それがありうべからざることのように感じているぼくの気持をきみは察することができるだろうか。「遠ざかる風景」と誰かが言った。どんなに遠ざかっていってもそこに向って一歩でも近づいてゆくことがぼくのいまの「前へすすむ」ということであり、そのためにぼくは書いている。生きるとは、過去に向って歩んでゆくことなのだ。その風景のなかの最もおおきな存在として先生がいる。