国分さんに教えてもらったマンションのすぐ横の道路に車を停止させる。
智君から聞いた話だと、アトリエより広くて交通の便もいいという話だったが、ここは少し不便な場所だった。
なんだってこんなところ…
スマホに記録させたメモを確認する。
部屋の場所は分かっていたが、いきなり押し掛けるにはそれなりの理由がいるだろう。
先に電話して…
そんな段取りを考えていると、エントランス横から車が一台出てきた。
親父…?
間違いない。
親父の車だ。
ということは自ら運転しているということか…?
俺はギアを入れると、その車の跡をつけてることにした。
◇
付かず離れず、何とか車を見失わないように追いかけていると、それはよく知る和食の店に向かっているようだった。
食事か…?
だったら、距離をおいても問題ない。
少しよその車を間に挟みつつ、俺もその店に向かっていった。
駐車場に車を止め、様子を伺う。
食事くらい構わないか…
俺は意を決して、店に入った。
<いらっしゃいませ。お父様はすでに来られてますよ。>
「あ…いえ、俺は別なんです。席は空いていますか…?」
<そうですか…あいにく予約がいっぱいでして…
少々お待ちください。>
なじみの店主が何とか席を作ってくれそうだった。
俺もここで食事を済ませて、それから…
相手はたぶん時間がかかるだろうから、俺が先に済ませて車に戻っていればいい。
話は食事が終わってからだ。
<こちらへどうぞ。>
笑顔で案内される。
廊下を渡って奥へと進んでいた。
奥の方の部屋をわざわざ空けてもらったとしたら、申しわけない。
だが…
店の者が開けたふすまの先には、親父と見覚えのありそうな女性が座っていた。
<ごゆっくりなさってください。>
え…
頭が真っ白になる。
親父とは別だと伝えたはずだ。
『私がこちらに通すように言ったんだ。』
「そ…そうですか…。」
促されてひとまず、親父の前に座った。
『どうしたんだ…?』
「急用で会社に行ったらいらっしゃらなかったので…マンションに行ったんですけど…。」
『ちょうど、私たちが出ていくところだったというわけか…?』
「ええ、まあ…。」
女性をチラリとみる。
どこかで会ったはずがある気がしたが、誰だったか思い出せない。
こんなことは初めてだった。
どっちにしても、自分は女とよろしくやっているんだ。
俺達の事をとやかく干渉なんてさせない。
『それで、お前の用事は何だったんだ…?』
「!」
女性をチラリとみる。
他人のいるところで話せることじゃない。
俺は、そんな事を平気で聞いてくる親父に腹が立った。
「いえ、大事な話なので、い時間を作ってほしいと思い、そのお願いに来ました。」
話は後日だ。
俺はそれだけ言って立ち上がろうとした。
『まあ、待ちなさい。いい機会だ。彼女の事を紹介しておこう。』
!
「………結構です。」
『翔。』
「お邪魔ですから俺はこれで…。」
そういって強引に話を終わらせると、ふすまを開けて廊下に出た。
後ろから人が追いかけてくる気配がした。
<しょうくん…。>
聞き覚えのある声…
これは…
俺は驚いて振り返った。
「横山さん…?」
だが、彼女は寂しそうな顔をしただけだった。
親父との事がばれて立場がないのだろう。
そういえば、親父はやけに彼女を気に入っていたような気がする。
なんてことわない。
どこの誰かと思えば、そういうことかと納得がいった。