潤はスタッフの打ち合わせを一通り終わらせると、時計をチラリと確認した。
スタッフがなんとなく顔を見合わせてたが、時に何も口にはしない。
彼らはただ黙って待っていた。
「じゃあ、今日はこれで…。」
案の定の言葉の後、流れるような動きで自分の荷物を手に取ると、マネージャーを探す。
潤はそのまま足早に現場を後にした。
ワンボックスは極めて安全運転で、彼のマンションの目の前で停車する。
<必要なものは…?>
そう尋ねられて、レジ袋の中身をざっと確認する。
「いや…揃ってると思うけど…。」
<持ちましょうか…?荷物多いでしょ…?>
ボストンバックにレジ袋三つ。
確かに多いが持てないわけでもない。
「いや…大丈夫。」
<じゃあ、何かあったら連絡してください。>
「ああ、ありがとう。」
そう言って車を降りた。
マネージャは余計な事は言わずにさっさと立ち去っていた。
潤としても、尋ねられたところで答えは決まっているのだから仕方がない。
荷物は多かったが、彼は軽い足取りで自宅へと向かっていた。
鍵を差し込んでドアを開けるまでに、一呼吸ついていた。
覆いきってノブを回すと、「ただいま…」っと声をあげながらたたきへと進んだ。
靴を脱ぎながら違和感を感じる。
まさかと、覆いながらリビングへとすすむと、案の定…
『あっ…お帰り。』
「なんで起きてるのっ。」
『だって暇なんだもん。』
「暇なんだもんじゃないじゃん。」
『だってさぁ…。』
大きな鍋の中をお玉でかき混ぜる。
潤は手を洗うと、すぐさまリビングに戻ってきて智のかき混ぜる鍋を覗いた。
「カレー…?」
『うん。』
「うまそ…。」
『美味いよ。』
得意げにそう言う智の横顔を眺める潤の視線は次第に逸れていた。
その首元に…
痛々しい包帯が目に入って、自然と彼の眉間にしわが寄っていた。
『なんて顔してんの…?』
智が苦笑を浮かべながらそんな指摘をした。
潤はそっとその首元に触れた。
「痛い…?」
『平気。』
「…。」
『本当だって…。』
そう笑顔を浮かべる智とは対照的に、潤の顔は暗くなっていた。
そこにはくっきりと歯形が付いていた。
深く噛まれたせいで血がにじんでいたのを覚えていた。
あまりにも痛々しくて、そんな事をまさか自分がするだなんて想像もしてこなかった潤には、かなりの衝撃だった。
『おいっ!』
「ごめん。」
『何回謝る気だよ。』
「だって…。」
智は潤から視線を逸らすとかき混ぜていた鍋に戻していた。
『まさか、後悔してる…?』
え…
智の言葉に虚を突かれて潤の呼吸が止まりそうになっていた。
「まさか………ないない、それは絶対にないっ!」
全力の否定。
『よかった…。』
そうぽつりと呟いた智を、潤は思わず抱きしめていた。
『危ないって…。』
「ごめん…。」
『だから…何回目だよ。』
「うん…。」
だが、腕は一向に離れる気配はなく。
ますます力が籠っていた。