初春のとある午後。僕は新宿の喧噪から少し離れたところにある暮らしの手帖社を目指していた。
閑静な住宅街に溶け込むコンクリート打ちっ放しの社屋。30分前に現地周辺に到着していた僕だったが、出版社のイメージとは異なるその外観に全く気づかず、到着したのは取材開始5分前のことだった。
今回インタビューしたのは、同社が発行する家庭向け総合誌『暮しの手帖』
編集長の松浦弥太郎さん。
自由をテーマにしたブックストア「COW BOOKS
」代表、文筆家でもある。
番組でフォーカスした書籍は『今日もていねいに。』
。
実は本書、いまから2年以上前にある方から強くすすめられ購入したのだが、長く我が家の本棚に眠っていた(松浦さんゴメンナサイ)。
当時の僕は今以上に余裕がなく、読書に「ビジネスやお金に直結する即効性のある知識が得られるか」ばかりを求めていた。
もちろんこれらは一起業家として必要なことだと思う。しかし、起業してから「目に見えるもの」ばかりを追いかけがちだった自分が、ここに来て行き詰まりを感じていたのも事実。そんな昨年末、本棚を見上げると目に入ってきたのが『今日もていねいに。』だった。
ひさびさに読んだ本書には、せかせか生きていた僕に、「目に見えないもの」の大切さを説く数多くのレッスンが詰まっていた。
松浦さん自身、インタビューの冒頭で本書執筆のきっかけをこう語っている。
「『いい車、いい家、いい服があるのがが幸せ』は昔の時代。これからは目に見えないものをどれだけも持っているかがいっそう大切になると思っていたんです」
本書には、彼自身が日々の経験から見つけた、毎日をよく働き、良く暮らすための珠玉のヒントががちりばめられている。
「何かを教えるのではなく、僕はこんなことに気づいたり、こんなことを大切に思ったりしているんだけどどうかな?というスタンスで書きました」と松浦さんが語るとおり、そこに僕がかつて読みあさった「ビジネス書」感はない。
50を超えるヒントのなかで、特に共感しものがふたつある。
ひとつめは「基本条件は孤独」というメッセージ。
「日頃『一緒にやろうよ!』という機会はよくありますよね。でも前に進んでいるようで進んでいないことって多くないでしょうか。これはみなで一緒にやると『逃げ場』が生まれてしまう。でも一人だとそうはいかない。でもだからこそ自分を知ることになり、人間力を高めることにもつながる」
松浦さんのこの言葉を聞いたとき、僕は起業したばかりのかつての自分を重ね合わせた。お金もアイデアも自信もない僕は、さまざまな交流会に足を運び、自分と同じく起業したての人と名刺を交換しては「ぜひコラボしましょう!」と提案したり、されたりを繰り返していた。
でも、このコラボ。今思うと、うまくいったものは皆無に等しい。それはみな、コラボという名の依存体制に最初から入っていたから│そう思う。
実際いまの自分のビジネスを考えると、そのほとんどが最初は、自分ひとりで脳に汗を何度もかきながら、苦しんで生み出したものだと感じた(もちろん、そのアイデアがビジネスになったのは、数え切れないほど人のお力のおかげです)
もちろん、これは僕個人の意見。でも、僕がかつてインタビューした何人かの経営者もこう言っていた。
「多くの起業家が勘違いしているけど、コラボは絶対実力をつけてから」
▼松浦弥太郎さんのインタビュー音声を無料で聴きたい方はこちら
著者インタビュー配信ラジオ「人生を変える一冊」
http://kiqtas.jp/book/
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