Side−A


智にぃと和也から『婚姻届』に署名してくれって、頼まれた時には驚いたけど…


「もし、雅紀も翔くんと『婚姻届』を作りたくなったら、その時は俺と和が署名するから…」

「えっ…?」


「その日が来るのを、待ってるから…」

「和也まで…」


そんな日が来るのかな…



「イヤなの?」

「…えっ?」


「だってまーくん、すっごく暗い顔してんだもん。」

「そんなこと…ないよ」


「まぁは、遠慮し過ぎなの。もっと図太くなればいいのに。」

「そうだよ。翔くんのことは、何があっても離さない、離れないくらいのことは言ってもいいんじゃない?」


それを言ってしまったら…


翔ちゃんは『櫻井』の家で、一人で頑張ってる。それは分かっている。


翔ちゃんがこの先も、僕を選んでくれるとは限らないんじゃないか。そんな不安がいつも頭を過った。


「それなら、さ?とことん話し合ったらいいんじゃないの?」

「話し合う?」


「そうだよ?翔ちゃんの気持ちを確かめもしないで、一人で勝手に気持ちを沈めてしまうのなんか、勿体ないじゃない?」

「翔くんの外見は変わってしまったかもしんないけど、中身は変わらず雅紀のことだけ思ってるんだから。」

「自信持って、いいんじゃないか?」


和也、智にぃ、それに潤にぃまで…



これだけ後押しされて、翔ちゃんの気持ちを確かめないわけには、いかないよね…



「少しだけでも、前を向いてみる…」

「そうこなくっちゃ!」


『バシッ!』

思いっきり、背中を叩かれた。


「いってーな!和也、少しは加減しろよ!」

「そんなに強く叩いてないけど?」


「ウソつけ!」

「…へへっ?」

「なに、やってんの?」

「ハハハ…仲が良いよなぁ?」




何だか、本当の兄弟みたいに思えて、嬉しかった。





その勢いで思い切って、翔ちゃんへ電話を掛けたら…



『もしもし?あなた…誰?』



電話口に出たのは…知らない女の声だったんだ。





…つづく。