Side−S
嫌嫌ながら出席したあのパーティーの一件以来、大学のキャンパスで知らない女達から声を掛けられるようになった。
「大野くーん!大野翔くーん!」
…誰だよ。オレはお前の顔も名前も知らないのに。何でオレのことは知ってる?
明らかにオレは不機嫌な顔をしている筈なのに、それには全く動ぜす、臆することもなく話し掛けてくる。
それも、次から次へと引っ切り無しに。
『翔くんて、呼んでいい?』
『翔くんは、付き合ってる人とか、いるの?』
『お父さんて、櫻井グループの櫻井拓哉だよね?』
どいつもこいつも似たような顔にしか見えず、誰が誰なのかどうでもいい。覚える気もしない。
「ねぇ、あなたの言ってた『弟』さんて、血が繋がってないのね?」
…コイツは確か、この前オレのマンションに強引に来た女だ。
「どうしてって、聞かないのね?」
そんなことは、金を使って調べれば誰にでも分かることだろう?それが、アンタ達の手口だもんな?
「なんか、あまり面白味のない人ね?」
じゃあ、さっさと何処かへ行けよ。オレの目の前から消えてくれ。
「ねぇ?『弟』さんて…専門学校に通ってるのよね?」
…それがどうした?
「あなたの名前で呼び出したら、来てくれるのかしらね?」
「…呼び出して、どうするつもりだ?」
「あら、怖い!『弟』さんなら、楽しいことをするのは嫌いじゃないかもって、思っただけ。」
「雅紀には…手を出すな…!」
「フフ…。その顔は、『弟』のことを気にするにしては、ちょっと違うわね?例えば…そうね…『恋人』だったりして?」
「……!」
「あら?図星なの?」
「『弟』に手を出すなって、言ってんだろ!」
「そんなに『弟』さんが大事なら、アタシと楽しいことをしない?」
「消え失せろ!」
「ふぅん?いつまでもアタシが大人しくしていると思ったら、大間違いだから…」
女はそう言うと不敵な笑みを浮かべ、背を向けて去って行った。
…つづく。