Side−A


…どういう、ことなの?


「『こっち』の方が『夢』で、雅紀が『夢』だと思ってる世界が『本当』の世界だってこと」


…そんなの、嘘…だよね?



俺は、生徒会役員室のドアの前で固まっていた。


部活の前に、翔ちゃんに今日返ってきた期末試験のテストを見せようと思っていたのに…



生徒会役員室のドアが開いて、翔ちゃんが俺に気づいた。


「…雅紀、もしかして今の話を」

「……聞いちゃった。」


「こっちに入って?」

「……うん」


「座って?」

「……うん」


翔ちゃんに支えられて、ゆっくりと一緒にソファーに腰掛けた。



「マサキ…落ち着いて、聞いてくれる?」

翔ちゃんが優しい声で俺の顔を覗き込む。


「『マサキ』はある出来事があって、記憶喪失になったんだ。」


きおく…そうしつ?


「そこで、治療のために『マサキ』が今まで体験したことを再現しているんだ。」


さいげん…って?


「分かり易く言うと、『再現ドラマ』みたいなことです。」


二宮くんが口を挟んだ。


「じゃあ…炎の国へと連れて行かれたり、『ショウ』の『側室』になったのって…夢じゃなくて…」

「全て、事実です。」


そう、なんだ?


「じゃあ…『コッチ』の世界で…翔ちゃんと…仲良くなったのって?」

「まったく…翔さんにも困ったもんです。元々、あなた達はラブラブなんですけどね?焦った翔さんが、色々と根回ししたり…」


「それって…?」

「岡田先生から図書室の本の整理を頼まれたでしょ?」


「えっ?あれって、そういうことだったの?」


『夢』だと思っていたあの世界で、失った記憶を取り戻すために、その分岐点までの出来事を再現していたことや…


『コッチ』の世界で、俺が翔ちゃんに恋心を芽生えさせるためのシチュエーションを作り上げたこと…



そして、俺が記憶喪失になった出来事へと近づいていることを…



釈然としないまま、俺はやがて知ることになるんだ…





…つづく。