Side−A
ここは『実』の世界…
伝令から、炎の国が翠の国と和睦の調印式を行い、国交を結んだとの報せを聞いた。その様子を見届けた紫苑の国も自国へと撤退を始めた、とのことも。
もう、翠の国で争い事はないんだ…。
そして、カザマもショウ皇子も既に炎の国に向かっていて、三日後には帰って来るという報せは、あっという間に城中に広まった。
「ミヤビどの。そろそろ我等はお暇すると致そう。」
「ショウ皇子が帰って来る前に、国許に戻らないとね?」
…ようやく、帰ってくれるんだ。
「とても楽しいひと時を過ごせて、我等も退屈しなかった。」
「…畏れ入ります。」
…やれやれ、やっとひと息つけそうだ。
「でも、その前に…」
「ひとつ、手合わせ願えるかな?」
「…手合わせ、と言いますと?」
「ミヤビどのが、この一週間でどの程度腕を上げたのか…」
「確かめさせてもらうよ?」
「…えっ?あ…あの?」
この人たち、俺がオカダさんから剣の稽古をつけてもらってるのを、知ってた?
「…始め!」
オカダさんの合図で、俺は木刀、サトシ皇子は棒術で試合が始まった。
「…くっ!」
「そらそら、どうした?本気を出してもいいんだよ?」
…この人、体が柔らかい。それに、体幹がヤバい。
「……!」
「動きに気を取られていると、命を落とすよ?」
「…参りました。」
カズナリ皇子も然り。この人は、俺が次にどう動くのかを観察している。サトシ皇子と同じく棒術なのに、まるで違う物と対戦している印象を受けた。
「たった一週間でこれ程とは…」
「オカダどのの、指導の賜物だね?」
二人ともあれ程動き回っていたのに、殆ど息を乱してはいない。それに引き換え俺はというと…
「はぁ…っ…はあ…っ…」
肩で息をするのがやっと。実戦でなくて良かったと、つくづくそう思った。
「それでは、ショウ皇子によろしくお伝え願おう。」
「次に会う時は、もっと上手くなっててね?」
「サトシさまも、カズナリさまも、お健やかで。またお会いしましょう…」
爽やかな一陣の風が過ぎていくような、その風にまた会いたくなるような、そんな別れだった。
…つづく。