Side−A
「お帰りなさいませ…ショウさま」
ショウ皇子がカザマと共に帰国の途につき、俺は二人を出迎えた。
「湯浴みの支度を頼む。長旅で土埃に塗れた体を、湯で洗い流したい。」
『既にご用意致しております。』
「ならば、直ぐに入る。ミヤビ、お前も一緒に入ろう、付いて参れ。」
「…あの」
「どうした?嫌なのか?」
「いえ…」
『正室』である皇女への挨拶もそこそこに、『側室』である俺と一緒に風呂に入るだなんて、『正室』が黙っていないんじゃないの?
「ふう…生き返るな…」
広い湯船の真ん中で寛ぐショウ皇子から離れて、俺は湯船の端っこで丸くなりその様子を見ていた。
「あの…ショウさま…」
「なんだ?」
「お帰りになられたばかりだと言うのに、皇女さまとはお入りにならないのですか?」
「なぜ、そんなことを聞く?」
「『側室』の俺が『正室』である皇女さまを差し置いて、ショウさまとご一緒に入浴など。皇女さまは決して良い顔をなさらないのでは?」
「ふん、そんなことか。」
「そんなことでは、ございません!」
「そんな隅っこで喚いてないで、こっちへ来い。」
「……。」
「オレは翠の国から帰って来たのだ。翠の国が生国であるお前の機嫌を取るのは当然であろう?」
それは、そうかもだけど…
「今宵はお前の部屋に泊まる。良いな?」
俺の部屋に泊まるってことは、もしかして『夜伽』込みってこと?
「今宵はたっぷりと可愛がってやるからな?覚悟致せ。」
……やっぱり、か。はぁ…。
『ショウさま。お寛ぎのところ申し訳ありませぬ。』
「なんだ?火急の用か?」
『いえ…それが…』
風呂の外から声を掛けてきた侍女の様子で、何か変わったことがあったみたいだ。
もしかして、『正室』である皇女さまのご機嫌を損ねたとか?
「構わぬ、申してみよ。」
『紫苑の国の、ジュン皇子がお見えでございます。』
「ジュンが?」
『ショウ皇子はこちらか?』
『あれ、ジュンさま!客間でお待ちくださいませ!』
『客間でなど、待ってはおれぬ!』
……嫌な予感しかしないんだけど。
…つづく。