Side−S
マサキが『虚』の世界ではなく『子供の頃』の夢を見たことを、オレはどう受け止めていいのか、分からなくなった。
オレが不安な気持ちになった原因はただひとつ、『スオウ』の存在だ。
今オレが居るのは、マサキの『夢』の中ではないのか?『夢』の中だとして、なぜ『スオウ』という男が居るのか。
このままでマサキが記憶を失くす分岐点に辿り着けるのだろうか…
陽が傾き、野営の支度が始まると、秀の国から合流して来たのか、人数が少し増えていた。
マサキは用を足すと言ってタツヤと木陰へ向かい、オレはスオウと二人きりになった。
「スオウ…聞きたいことがある。」
「なんだ?」
「これはオレが創り出した、マサキの『夢』の世界だ。しかも、マサキが記憶を失くした分岐点に辿り着くまでの物だ。そこには『スオウ』という男は存在しない。それなのになぜ、スオウは居る?」
「…知りたいか?」
「あぁ、教えてくれ。頼む…」
「…教えてやってもいいが、ひとつだけ条件がある。」
「…条件?それは、なんだ?」
「『翡翠の谷』に着いたら教えよう。それまでは…明かせぬ。」
「スオウは『翡翠の谷』の場所を知っているのか?」
「…なぜ、そんなことを聞く?まさか、マサキ皇子は『翡翠の谷』の場所を知らないとでも言うつもりか?」
「……。」
「…知らないのだな?」
「……。」
「分かった。フウマさまには言わないでおこう。」
「…そうしてくれると、有り難い。」
「ショウ皇子は、マサキ皇子のことをどう思っている?」
「オレは…マサキを愛している。マサキはオレにとって、この世で一番愛おしいと思う存在だ。」
「それで…マサキ皇子の記憶を取り戻そうと、この『夢』を創り出したというわけか…。では、私からも聞きたいことがある。」
「…なんだ?」
「ショウ皇子は、マサキ皇子が記憶を取り戻したら、どうするつもりだ?」
「もう一度、我が炎の国との国交を結び直し、ゆくゆくは炎の国と翠の国とをひとつの国としたい。」
「…それは無理な話ではないのか?噂では、ショウ皇子は紫苑の国から嫁いできた『正室』である皇妃を蔑ろにしていると聞くが…」
「皇妃のことは、オレが説得する。必ず、分かってもらえるように努力する。」
「…そうか。だが、現実は急進派が保守派を抑え権力を握ろうとしている。もし、急進派が権力を握れば、翠の国は秀の国と手を結ぶだろうな。」
「そんなことはさせない…!」
「悠長に構えていると、誰かの身が危ないのではないのか?」
「…それは、どういうことだ?!」
「さあな?今のは、私の独り言だ。」
「…スオウ?」
お前は一体、誰なんだ?それに、誰の味方なんだ?
オレの胸騒ぎは、なかなか収まりそうもなかった。
…つづく。