Side−S
オレ達を乗せた馬車は、南へ南へと進んだ。
そこには、本当に『翡翠の谷』があるんだろうか…
もし、『翡翠の谷』が見つかり、秀の国と翠の国の急進派が手を結べば、翠の国王の権力は地に落ち、急進派が実権を握るだろう…
それを阻止するには…?
もし、阻止出来たとしても、翠の国の保守派と急進派との間に戦が起きれば、秀の国が急進派の後ろ盾になり、内戦が激しくなるだろう…
そして、やがては戦を鎮めるための戦さが始まってしまうだろう。マサキのためにも、それだけは避けたい。
「ショウさま…。先程から何をお考えなのですか?」
「『翡翠の谷』が見つかった場合の、この国の行く末を考えていたんだ。」
「見つからなければ…俺達は、どうなるのでしょうか…?」
「見つかっても見つからなくても、どの道、オレ達は戦わなければならないかもしれないな…」
「…国を守るための戦、ですか。嫌な選択肢だ。」
「戦などしなくても済むのが、最良の方法なのだが…」
『悠長に構えていると、誰かの身が危ないのではないのか?』
スオウの言った言葉が、オレの耳を離れないでいた。
『翡翠の谷』に着く前に、この場を何とかしなくては…
それよりも、マサキが記憶を失くしたのは翠の国の城での出来事が原因だったのに、『翡翠の谷』でも同じ事が起きる保証はない。
『翡翠の谷』にも、その分岐点は在るのだろうか…。
「ショウさま…!」
「どうした?マサキ…」
「…これを」
マサキは胸元を広げ、オレにその首に掛けた翡翠のペンダントをみせた。
「…どうしたんだ?…光って」
『しっ…!スオウに聞かれてしまいます…』
オレの口をマサキの手が塞いだ。ここは、声を潜めて話さねばならないのだな。
『すまない…。これは…一体…どうしたのだ?』
『恐らく…翡翠の谷が近いのでは、と…』
『共鳴して…光っていると?そういうことなのか?』
『はい、でも…』
『なんだ?言ってみろ…』
『ショウさまは、俺の記憶を取り戻すためにこの『夢』を作った。それは、なぜなのですか?』
『この世で一番、マサキのことを想っているからだ。』
『記憶を失う前の俺は、ショウさまのことをどう思っていたのでしょうか?』
『それは、だな…。オレを…想っていてくれた。』
『…本当に?嘘偽りなく…ですか?』
「…煩いな。さっきから、何をコソコソとやっている?」
「あの…俺は記憶を失くしてて…その…」
「ショウ皇子がお前の記憶を取り戻すために『夢』の世界を作ったという、あれか?」
「…ハイ」
「好きでもないヤツの為に、こんなまどろっこしいことをすると思うか?」
「……いいえ」
「だったら、お前のことを好きだということでいいんじゃないのか?それと…」
「…はい?」
「好きでもないヤツの膝枕でぐっすり眠れるということも、ないと思うぞ?」
「…あ…ハイ」
「分かったなら、少し静かにしていろ。もうすぐ『翡翠の谷』に着くはずだ。」
『翡翠の谷』に着いたら、オレ達の運命はどう変わっていくのだろうか…
…つづく。