Side−S
松岡さんが雅紀のことを誤解した上に、『雅紀に関わるとろくな目に遭わない』って散々言い放ったことを知った。
松岡さんにしてみたら、オレと櫻井の『父』の板挟みになって、その苛立ちを雅紀に当たり散らした部分もあったんだと思う。
それなのに、オレはまた、雅紀を傷つけてしまった。
傷つくのは誰だって嫌な思いをするし、もう二度と傷つきたくないと予防線を張るのに…
一番傷つけたくないはずの雅紀なのに、どうしてこんなことになってしまうんだろう…
オレは誰かに聞いて欲しくて、智にぃに電話を掛けた。
『そりゃあ、まだ気持ちに遠慮してるとこがあるからだろ?』
「…遠慮?」
『翔くんが、雅紀を悲しませたくないって思うのは分かるよ?でも結局、それが裏目に出てしまった。それだけのことだ。』
『それだけのこと』だなんて言い切れるほど、オレはまだ割り切れないでいる。
『それはそうとな…』
和也の『お祖父ちゃん』が亡くなって数日後に、実の『父親』が小百合さんの家を訪ねて来た時の話を聞いた。
和也にしてみれば、自分を児童養護施設に置き去りにした憎い存在だったから…
『お母さんがカズに殴るなって言ったんだよ。でも、当のお母さんが…』
「引っ叩いた?!」
『んふ…。びっくりだろ?』
「…うん。」
『お母さんは多分、カズが殴るとこなんか見たくなかったんだろうな。それと、分かって欲しかったんだと思うよ。殴ろうが、引っ叩こうが、何も解決しやしないんだって。…でも、な?』
智にぃは、『ふふ…』と笑うと
『でも、やっぱりひとつくらいは引っ叩かなきゃ、気が済まなくなったのかもな?なんでカズを置き去りにしたんだって…。そんなことをするくらいなら、どうして自分の所に連れて来てくれなかったんだって…。どんなに苦労したって、自分の手で育てたかった。きっと、そう言いたかったんだと思う…。』
親の愛を知らずに育ったオレには、分からないことだけど…
「親って、凄いんだな…」ふと、そんな言葉が口をついて出た。
『親には敵わないけど、オレだって翔くんや雅紀のこと、ちゃんと大事に思ってるぞ?』
「うん、分かってる。ありがとう…」
『んふ…改めて聞くと、なんか…くすぐったいな…。』
「…そう?」
『うん、やっぱ照れ臭い。それより、翔くん。いつ頃退院出来そうか?』
「松葉杖になれば、退院出来るみたい。でも、まだまだ先の話だよ。」
『退院出来たら、ウチへ来いよ?快気祝いするから。』
「じゃあ、オレ…智にぃが作ったオムライス食いたいな。」
『オムライスでいいんなら、いくらでも作るぞ?』
「ホント?オレ、めちゃめちゃリハビリ頑張れるわ。」
『ハハハ…。じゃあ、めちゃめちゃ美味いオムライス作んなきゃな?』
「うん!」
やっぱり、智にぃと話して良かった。
オレの本当の居場所は、智にぃの…いや、潤にぃも雅紀も和也も、みんなが集うあの家で、心の支えになっているのは、『兄弟』なんだと思えた。
たとえそれが、血が繋がっていない『兄弟』だとしても…。
…つづく。