Side−S


『北見モータース』に居た頃の話までするとは、オレもヒロキさんも思ってもみなかった。


なんでヤツが全部ぶちまけるみたいに、それも急に供述するのか、オレには到底理解出来なかった。


それは、検察側も同じ思いだったみたいで、ヤツに真意を聞いた。


『どうせ、ブタバコに入るんなら、全部話してからにしようと思って…。今まで口をつぐんできたけど、もう…それもやめようって…』


コイツは、金のためにどれだけの悪事に手を染めてきたんだろう…。


『北見モータースに居た頃は、国産車だけじゃなくて、外車の修理もやった。中には、金持ちの人間が事故を起こしたことを隠蔽するために、急ぎの修理を依頼してくることも何度かあった。』


事故の隠蔽工作までしてたのか…。それにはきっと、雅紀の『父親』も関わっていた筈だ。


『もちろん、口止め料も入ってたから、いい稼ぎにはなったけど…』


途端に、法廷内がざわついた。ふと、熱心にメモを取っていた二人が目についた。その人達はどうも新聞記者らしく、一人は新人で、もう一人は中堅といったところか。


『この分だと、今日は閉廷かな。しかも、被告人が矢継ぎ早に自白したところで、検察の立件は難しいだろうな。』

『…なぜですか?』


『第一に証人が存命かどうか、第二は存命だとしても、証言が取れるかどうか、だな?』

『証言が取れるかどうか…とは?』


『被告人が依頼人は金持ちだって言ってただろ?それに、口止め料を受け取ったと言っている。依頼人が簡単に口を割るとは思えないし、結局のところ有耶無耶になるだろうな。』


…そうだよな。


オレの車のブレーキを細工するように依頼した『お嬢様』と、櫻井の父との間で穏便に事を済ませたことを考えれば、有耶無耶になる事は容易に想像がつく。



新聞記者の人の言う通り、法廷は閉廷になり、被告人の判決は次回の公判に委ねられることになった。







…つづく。